名曲「Lady of Winter」を真冬に聴くなんてのはいかがでしょう?このバンドはあんまりトロピカルな夏は似つかわしくないですからなあ。故Midnight(Vo)の絶唱をご堪能あれ。
<今回の作品>
Crimson Glory『TRANSCENDENCE』(1988)
1.Lady of Winter
2.Red Sharks
3.Painted Skies
4.Masque of the Red Death
5.In Dark Places
6.Where Dragons Rule
7.Lonely
8.Burning Bridges
9.Eternal World
10.Transcendence
メンバー
Midnight(Vo)
Ben Jackson(Gt)
Jon Drenning(Gt)
Dana Burnell(Dr)
Jeff Lords(Ba)
バンドのヒストリーについては後程時系列でちょっと整理しますが、これは彼らのセカンド・アルバムにあたります。メンバーはデビュー作と同じ。
タイトルの「TRANSCENDENCE」とはどういう意味か?これについては、バンドの中心人物Jon Drenningが「宇宙の領域を越える、超越するというような意味だね」と解説しております。【『BURRN!』誌インタビュー】アートワークもそういう世界観をあらわしたものだということですが、表紙を手掛けたのは日本の人らしい。ジョン曰く「ニューアルバムのジャケットは日本人が描いたものなんだよ。幸運にも連絡がとれてね。Takeshi Teradaっていう人で、とても美しい絵を描くんだ。裏ジャケットには僕の描いた“Interior Life”という絵が使われてる。超越を表わしたもので、僕たちの存在する世界が1つになり完全体となることを表現している」。コンセプト・アルバムということではないようですが、内容・外観に統一感を持たせることに拘ったつくりは好ましいですな。
さて、アルバムを再生しますと、いきなりスネアの連打とともに細かいギターの刻みが鳴り出します。名曲「Lady of Winter」でございます。16分の刻むギターリフ+硬めの音質のベース+インテンスに駆るドラムという、彼らの黄金パターンがいきなり幕開けですが、やっぱり何よりおそるべきはヴォーカル。0分35秒あたりの「♪The glowing clouds are moving through the winter night」のところ(特に後半部分)なんかに凄みを感じますし、バンドの演奏も含めややキャッチーに(一緒に歌いたく?)なるコーラス「♪Lady of winter, turning to rain. White world of wonder, fading away.」の最後の"超音波"(比喩)も突き抜ける感じが強烈。Midnightっていう人はいわゆる「ハイトーン・ヴォーカリスト」ではありますが、彼の好きなRob Halfordなんかと同様、中音域の表現力(ドスが効いているときもあるし、オペラティックなときもある)があるからあの超高音も映えるのでしょう。Midnightの本作における神懸った歌唱は、もっともっと評価されてしかるべきだと思っております。リード・ギタリストJonのテクニカルなソロあけに来る(2分55秒あたり)全楽器パート一体となった煽りも良いですし、そこから再びキャッチーなコーラス「♪Lady of winter……」に入っていくのも素晴らしい。この曲は、本アルバムからのファーストシングルでした。近年のトピックでいうと、現GalneryusのヴォーカリストでもあるShoこと小野正利氏が2011年のソロ・カヴァー・アルバム『THE VOICE:STAND PROUD!』でこの「Lady of Winter」をカヴァーされてます。こんな曲をカヴァーして様になるのは、クリアなハイトーンで歌いあげられる小野氏くらいのものでしょう。(以前にも紹介したでしょうか?小野氏の歌う「Blackout」(Scorpions)・「Exciter」(Judas Priest)・「The Look in Your Eyes」(Hughes/Thrall)なんかも素晴らしい。)
さて、アルバムでは前曲からほぼ間をあけず次の「Red Sharks」につながります。アグレッシヴな高速三連チューン。ここでも一糸乱れぬ伴奏の上でMidnightのヴォーカルが冴えわたる。ヴァースのところはちょっと狂気染みつつ抑えた歌い方を演ってみせ、ブリッジ(「♪Hear no evil, see no evil, speak no evil.」)で"超音波"をかました後、中音域からのメロディアスなコーラスをキメる……恐れ入りました。Jonのギターソロも気合いが入ってて美味しい。そして十八番の「ソロ明けのテンポチェンジパート」、3分40秒あたりの「♪Bloody red sharks」っていうMidnightシャウトはもう信じられん。この曲は「共産主義が小国を喰い尽くしていくという内容なんだけど、これは別にバンドの観点じゃない。現代のマスコミの観点さ」(ジョン)だそうです。確かに彼らは、別にポリティカルな主張をするグループじゃありませんでしたけども、時事に無関心だったわけではないのでしょう。このアルバムにはもう一曲”red”が出て来るんですが、意味合いは違うというわけ。
聴いてるだけで疲れるような2曲目の後は、アコースティック・ギターで始まるパワー・バラード「Painted Skies」。「♪Only nightmares are real. Confusion conceals the only reason for the feelings you can’t hide」などなどと歌われる随分と陰鬱そうな内容ですが、歌メロはきわめてメロディアスで、Midnightの歌のうまさが十二分に堪能できます。
そして4曲目、私はこの曲が無茶苦茶好きなんですが、「Masque of the Red Death」。何で好きかというと、曲がグレートだからというのもありますが、エドガー・アラン・ポーの名作怪奇小説「赤死病の仮面(The Masque of the Red Death)」をモチーフにしているから。(そのことはインタビューでジョンも語っておりました。)「文芸モノ」ロック・ソングっていうのは、詞と曲とパフォーマンスのどれか一つでも弱いとたちまち情けなく感じられてしまうものですが、これは成功例でしょう。本人たちいわく「中東風っぽいフレーズを入れてみた」というのですが、味付け程度なのが奏功、ギリギリのところでわざとらしくならずミステリアスな雰囲気を盛り上げておると思いますな。高音のタムを絡めたドラムのフィル・インも良いわ。コーラスの「♪Masque, masque of the red death. No one is safe from the poisonous plague that you breed.」っていうところはまさに鳥肌もの。前半部分はMidnightのヴォーカルが重ねられていて、ドス声と超音波を同時にくらわされてしまうのだ。あと、いまリマスター版(後述『IN DARK PLACES』ボックスセット版)を聴いていて特にそう思いましたが、ジェフ・ローズのベースが地味にいい仕事してますね。フロントがトリッキーなことをやっても重厚感が失われないのは彼の功績だ。
5曲目はミドルテンポのヘヴィな「In Dark Places」。しかしずっと重苦しいだけではなくて、3分25秒辺りからのコード進行が短く「爽」なイメージを演出するなど、起伏に工夫が凝らされていたりも。7分近い本作中最長ソング。続く6曲目の、行進曲風の曲調をもつミドルロックソング「Where Dragons Rule」。ジョンによれば「ドラゴンをむつかしい人間や戦闘機械に例えて歌ったものなんだ」。
ヘヴィソングが続いた後に来るのが、新機軸のメロディアスな「Lonely」、アルバムからの二番目のシングルでした。日本盤のライナーノーツには確か、「Crimson Gloryにあまり情緒的なテーマは似合わないのでは」といった趣旨のことが書かれてあったと記憶しますが、そうでもないような。「俺達の曲の中で一番人に受け入れられ易い曲だと思う」とはジョンの言葉ですが、単なる甘いバラードなどではなく、彼ら一流の張り詰めた感じ(緊張感)が程よく効いております。物悲しい曲調でずっと進行しますが、その分、数度目のサビ「♪Lonely in love…」(3分30秒辺り)のあとのコードチェンジ(ギターソロへの入り)が“爽”に思える。ある意味これも得意のパターンですか。
「Burning Bridges」もアコースティック・ギターから入りドラマティックに展開する十八番の作法。ヴォーカルもギターも「重ね」が非常に行われていまして、オーケストレーション効果(?)により壮大なイメージが形作られます。中盤からキーボードも分厚く入ってきて、その後ろではジョン入魂のソロが。そもそも凝った曲の多い彼らの中でも特に装飾の多い一曲。
ここまでミドルテンポの楽曲が続きました(曲中でテンポチェンジするものもあるので、必ずしも一本調子ということではないですが)が、次の「Eternal World」で攻撃的な疾走曲に巡り合うことになります。シンフォニックなイントロから、急き立てるようなギターリフとドラムのパターンに移り、朗々としたMidnightの歌が乗る。「♪Behold eternal world where time has no meaning, reality is dreaming」というところの歌唱は荘厳。2分45秒辺りからのギターソロ前奏のフレーズが聴き手を高揚させ、その後の鬼気迫るジョン’sソロに。この曲は本作中最も短く(それでも3分50秒ありますが)、ソロあけにあっけなく終わってしまいます。
終曲は「Transcendence」。ジョンによれば「幽体離脱とか、死後の人生、そして再生といったことについての歌」だそうで、「超越的なもの」を表現しようとしたこのアルバムの“総括”にあたるのだそうです。歌詞のテーマを理解するのはなかなか難しいところですが、終盤に確かに「♪In death I’ve found the answer. In death I live again. Fear not thereaper’s blade. It does not mean the end.」と歌われています。アコースティック・ギターが全編で用いられるドラムレスの曲。
ようやく全曲感想記述終了。いやあ、正直音楽的密度が高すぎて疲れるほどでした。ものすごく練られているというか、ラフなところや遊びのところがほとんど見つからないのです。こういう緻密な音作りをするグループは稀だと思いますから、貴重ではあるのですが――当時はQueensrÿcheやFates Warningに近い括りに含められていたようです――、こういうものばかりを聴いていたらさすがにまいってしまいそうですね。ともあれ、名作が多々生まれている1988年のHMシーンの中にあっても、埋没しない強烈な個性を有する傑作ではあったといえると思います。
<続く>