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"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第29回「ロックンロール動物園・十二支編」(5)

(猫)King CrimsonCat FoodIN THE WAKE OF POSEIDON1970
 オマケ。聴くところによるとチベットなどでは兎の代わりに猫が入ったりするそうですね。十二支に。考えてみたら各地でバリエーションがあるのも当然の話でしたね。インドは「ガルーダ」が入るとか……
 
 さすがに「ガルーダ」の曲は無かったんですが、「猫」ならいくらかありました。こんなのはどうでしょう、King CrimsonCat Food」。衝撃のファーストアルバムと続くツアーの後早くも崩壊したバンドは、Robert Frippが中心となって組み直しを図ることになりました。セカンド・アルバムIN THE WAKE OF POSEIDONでは、前作と同じ面子が多くのトラックで参加はしているものの、実質的にはゲストのような扱いでした。(一応補足すると、ロバートがまわりをクビにしまくったんじゃなくて、主にツアーに疲れたなどの理由でメンバーからバンドを離れていった、ということだったようです。だからスタジオ作品では協働が可能だったわけです。)
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King Crimson『IN THE WAKE OF POSEIDONジャケット
 本作中で最も突出しているトラックが「Cat Food」。The Beatlesの「Come Together」風のベースラインに乗って早口のヴォーカルが謎の歌詞(Pete Sinfield作詞)をわめく。中間部分の“Poisoned specially for you. Hahaha…”っていうところなんかはエフェクトも掛かってて不気味。これだけでもインパクト大ですが、この曲の主役はピアノ。英国ジャズ・前衛ピアニストのKeith Tippettが全編で凄いフレーズを突っ込んでいるのです。言葉で説明しづらいですが、むかしものの本で読んだところだと、「猫がピアノの鍵盤の上を気ままに動き回っているような感じを出した」とかで、無茶苦茶に聴こえるのですが通して聴いていると実に心地よい代物。キース・ティペットさんはこの後も英国ジャズ界・ジャズロック界で大活躍されます。
 
 こんな(ロックとしては)前衛曲をカヴァーする人などまずおるまいと思っていたのですが、ちょっと面白いのがありました。The Crimson Jazz Trioっていうグループが、この曲をピアノトリオのジャズにしちゃってるの。そんなのつまんないかと思うと、意外に面白いのです。もちろん大きくアレンジを施してはいるわけですが。なおこのグループのドラマーは、かつてKing Crimsonに在籍した(4thアルバムISLANDSの頃)Ian Wallaceさん。当時のKCライヴ音源を聴くとワイルドなプレイが印象的なのですが、その後の氏はセッション活動などで繊細なプレイも披露する機会も増えたようす。そんな彼が――自分が在籍した時期以外のも含めて――King Crimsonの曲をジャズにしちゃおうと企てたのがこれで、KING CRIMSON SONGBOOKっていうアルバムをVol.1Vol.2の二枚出しています。(残念ながらその後Ianさんは亡くなってしまったのですが。)「Cat Food」はVol.1に入ってますが、こちらには他に「21st Century Schizoid Man」「Ladies of the Road」「Starless」「Red」などが収められてます。Vol.2の方には「The Court of the Crimson King」「Frame by Frame」「Sailor’s Tale」「Lament」などを収録。私の如き、ロックの側からジャズを聴きたい人間にはありがたいセットになっております。
 
 少しむかしのはなしですが(2006年)、「プログレ」にまつわる対談で三柴理氏(特撮)と内田雄一郎氏(筋肉少女帯)がこんなことを仰ってましたね。
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 三柴「〔KING CRIMSON SONGBOOK Vol.1を聴いて〕これは気に入りました」
 〔中略〕
内田「ものすごくいいよね」
三柴「もっとダサくなっちゃいがちなのに、そういう風にはなってない。これは最後までちゃんと聴けるし、何回も何回も聴いてますよ」
〔中略〕
内田「僕はあんまりジャズって知らないんだけど、〈あっ、ジャズっていいじゃん!〉って思っちゃうような作品ですよね。プログレしか聴いていない、心の狭い人にとってジャズ入門にバッチリっていう(笑)」【『SHINKO MUSIC MOOK フラッシュバック・シリーズ プログレッシヴ・ロック200611月】
 
 こちらに便乗するわけじゃないですが、私もお勧めしますね。あ、もちろん本家King Crimsonもぜひお楽しみ下さい。
<完>