(卯)Jefferson Airplane「White Rabbit」『SURREALISTIC PILLOW』(1967)
サンフランシスコのサイケ・ロック名バンドJefferson Airplane。このバンド、キャリアが長い上、名前が変わったり人脈が複雑だったりして、正直現状では私の理解が追い付いていないのですけど、初期の妖しい感じの曲はまずまず好きです。ま、『THE WORST OF JEFFERSON AIRPLANE』(1970)ていうベスト盤を一枚持っているだけなのですけど。あ、むかし或るアマチュアバンドで「Somebody To Love」を叩いたなあ。それと、このベストには入ってない曲ですが、彼らが1967年のモンタレー・ポップ・フェスティヴァルに出た時の音源で聴いた「The Other Side of Life」が異常にカッコ良かった。
「White Rabbit」(『SURREALISTIC PILLOW』収録)も、私にしては珍しくよく覚えている曲で。この曲を作曲したGrace Slick本人の歌唱が「怖い」んですよ。バックがマーチングドラムみたいなので始まってイヤに淡々としているところに、朗々と(ヴィブラートをかなり効かせて)歌われるのがもうね。歌詞に「アリス」「白ウサギ」「ナイト」「クイーン」……と出て来るのでわかりますが、アイディアの元になったのはルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』とのことです。ドラッグ・カルチャーのただ中で生まれた曲ですから、“そういう”ニュアンスもあり。
私の好きなグループでいうと、英国パンクの古株The Damnedが録音したヴァージョンがありまして、彼らの1980年のアルバム『THE BLACK ALBUM』のデラックス版ボーナス・トラックで聴くことが出来ます。Dave Vanian(Vo)の冷たい感じの声質によく合ってるんだよね。
当方メタル者なんで、「Dragonなんとか」っていう曲は結構手持ちがあるのですが、そういうのじゃなくてズバリ「龍の歌」を挙げます。オリジナルはJohn McLaughlin、英国ジャズロック界のスーパー・ギタリストでありますが、彼の『DEVOTION』(1970)に入っておりましたもの(インストゥルメンタル)。ちなみにそちらは鍵盤を“オルガンのコルトレーン”Larry Youngが担当していました。
一方こちらのヴァージョンは、バンドを率いたBrian Augerがもちろんオルガンをプレイ。ブライアンは60年代からジャズとロックの双方にまたがる活躍をしてきていた人ですが、自らのジャズロックバンド「Oblivion Express」を組み上げて70年代に入りました。ゆったりした三連のグルーヴの中でギターやオルガンが変幻自在に躍る、彼らの個性を名刺代わりに示す素敵なカヴァー曲(本曲)がデビュー作の1曲目とは、やってくれますね。オリジナルにあったドラム(Buddy Miles)の暴れ具合やジョン的ギターフレーズの個性は薄まっているかわりに、グルーヴ・ミュージックとしての心地よさは際立っております。
後に、1978年に名ドラマーTony Williams(Dr)のバンドの一員として来日した際にもブライアンはこの曲を披露しています。他のメンバーはRonnie Montrose(Gt)・Mario Cipollina(Ba)。ブライアンとトニーの共演というだけで最高なのに、われらがギターヒーローRonnieと、Huey Lewis & The News以前のMarioが加わってるなんざ、もうどうしていいかわからない。ロックとジャズの間に垣根不要!ですな。
(巳)Soft Machine「Land of the Bag Snake」『BUNDLES』(1975)
今度は前曲で出てきたTony Williamsとも縁のあるギタリストAllan Holdsworthの名演を楽しもう。先だって亡くなったアランさんは、60年代にキャリアをスタートさせてから2010年代まで、ギター界の先端を歩んできた名人でございます。70年代初期までのサイケ・ハードロックバンド時代も捨てがたいですが、彼の名演を純粋に楽しみたいとき私はSoft Machine『BUNDLES』を引っ張り出すのです。サイケ・プログレから出発し、ジャズ、そしてフュージョン……とその音楽性を変えてきたソフト・マシーン(メイン・コンポーザーの交替が背景にある)ですが、ギター・ソリストとして初めてこのバンドに加わったのがアランさんでした。(ギターも弾くシンガーとしてはKevin Ayersなどが居た。)
ギターらしからぬ(多くは複雑な“スケール”の――ジャズにおけるサックスのフレージングなどにインスパイアされたといいます)フレーズを、極めて滑らかな速弾きで奏でるのが唯一無二の彼の技なのですが、自作の「Land of the Bag Snake」でもそれが十二分に堪能できます。それでいて、単なるギター曲芸お披露目会にならず、構成のある楽曲になっているのが素晴らしい。このアルバムには名演が詰まっていますが、1曲目「Hazard Profile Pt.1」が最高ですのでそちらもお聴きいただきたいですね。
「スーパー・ギタリストといっても生演奏でそんなに弾けるの?」というお疑いもごもっとも。しかしお立合い、『FLOATING WORLD LIVE』(2006)という発掘ライヴ音源を聴けば、その勘繰りが間違っていたことを悟ることでしょう。ソフト・マシーンの他の面々も巧者揃いなわけですが、一糸乱れぬ、どころかスタジオ録音よりエキサイティングなプレイが楽しめてしまうのだっ!
アランさんとソフト・マシーンの相性はかなり良かったというべきでしょうが、ちょうどこのころアランさんのもとにあるオファーがありまして。それが、トニー・ウィリアムス御大からの誘いだったのでございます。Miles DavisのバンドやTony Williams Lifetimeなどで偉業をなしてきたトニーからの誘い、断れる英国ジャズのミュージシャンはそうそうおりますまい。アランさんも若干悩んだ挙句、ソフト・マシーンを脱退する決断をしたのでありました……(ちなみに、両者に遺恨は別に無かったようで、2003年には“Soft Works”名義でアルバム『ABRACADABRA』を出してます。管楽器のElton Deanさんの影響か、ジャズ色強めではありますが。)
<続く>