DON'T PASS MUSIC BY

"Louis XIV, finesse and force......."<Chroming Rose>

第26回「XTC」(2)

さ、本編に入りましょう。本当は、巧みな演奏に演出された美旋律とシニカルなメッセージの雨あられたる本作について四の五の言うべきじゃないのかもしれないのですが、身勝手させてもらいます。
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*アルバム背面


このアルバムが「ロックっぽいなあ」と感じるのは、まず冒頭の「The Ballad Of Peter Pumpkinhead」のせいかもしれません。ギターをアンプにつないだような効果音のあと、切れ味良いギターリフが始まると、ドラムがドカドカと入ってきて、Andyが“Let’s begin!”とシャウト……この曲は物語・寓話風歌曲=「Ballad」であって、いわゆる歌モノ「バラード」じゃないわけですが、まーあ元気いっぱいに始まるのですね。所々入るハーモニカも良い感じ。歌詞の中身は「Peter Pumpkinhead」という(架空の)人物の伝記で、真の愛を説く彼が一時民衆に支持されつつついに迫害される、というどことなく(とぼかすほどのこともなく?)イエス・キリストのようなお話。この曲は、次に述べる終曲とともに、本作中ではメッセージ性が強いように思います。


シングル・カットもされましたが、後にカナダのバンドCrash Test Dummiesがカヴァーしたヴァージョンの方がヒット、Andyは「あれにはすごく嫉妬したよ」〔前掲『ソングストーリーズ』より〕。CTDヴァージョンはPVYoutubeなんかで観られるみたいです。


次に忘れないうちに述べておきたいのが、メッセージ性ということでいうと本作随一となる終曲「Books Are Burning」。タイトル通り「焚書」を歌った曲ですが、本好きAndyにとってそれは恐怖だったといいます。曰く、「ハインリッヒ・ハイネは『本が焼かれる時、最後には人間も焼かれる』と言った。俺は本が大好きだ。良いとか悪いとかは関係ない。本というものは歴史と英知の直通線ホットラインなんだ。本は俺たちのルーツであり、絶対失ってはいけないものなんだ。」〔前掲『ソングストーリーズ』〕この曲で、ほとんど同じことを歌詞にして歌っています。


楽曲は陰鬱さと爽やかさを共に感じさせるようなスローテンポ。Mattacksさんのタメのきいたドラムが良く、Colinの変幻自在ベースも素敵ですが、最高の聴きどころは最後に待っています。320秒ごろから、このバンドにしては極めて珍しく、ギターソロ・バトルが聴けるのですよ。先攻AndyDaveAndyDaveで進むのですが、もう絶品すぎる。Andyが得意の少々ギョっとさせるようなフレーズを繰り出して聴き手を揺さぶると、後を受けたDaveがまろやかな(?)フレージングで全体を包み込む。こんなハイレベルギタリストが揃っていながらギター・バンドで売ってないんだから恐れ入ります。


ちなみに、Andyさんのギター・プレイに影響を与えたのはRory GallagherOllie Halsallだったそうで(”Andy Partridge Guitar Lesson”という動画で自ら解説してます)、妙に納得。特に後者Ollie Halsallという人は、「ギターらしからぬフレーズ」を繰り出す名手でしたからねえ(Pattoってえバンドの「Money Bag」を聴いてみてね)。一方、Daveさんの方は、XTCを抜けたこんにちも「ギタリスト」としてBig Big TrainTin Spiritで活動していますが、XTC時代の名演としてはさしあたりDRUMS AND  WIRES収録の「Real By Reel」のギターソロ(230秒ごろ)を聴いて下さい。ごく短いソロですが、曲の雰囲気を活かしながらテクニカルで小気味よいフレーズを奏でていますよ。ライヴの映像も観たことがありますが、涼しい顔して軽々と弾いてたので脱帽しましたね。
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DRUMS AND  WIRESジャケット

さて『NONSUCH』収録曲のうち、例のベストTHE GREATESTに入っていたのは「The Disappointed1曲。シングルにもなったこの軽快なシャッフル曲、テーマは「絶望した人々」なんですがどうにもキャッチーなのですね。最近買ったリマスター版CDで聴くと、歌の後でけっこういろいろな楽器が鳴らされていたのがわかります。名刺代わりの1曲としては納得。


Colinさんもこのアルバムでは「My Bird Performs」「The Smartest Monkeys」「War Dance」「Bungalow」を提供。「My Bird~」はゆるやかに下降していくコード(流れ)に優し気な歌が乗る、「あの歌は人生に満足している気持ちのメタファーだったんだ」〔『ソングストーリーズ』〕というコリン流ポップ・ソング。「The Smartest Monkeys」は一方、驕れる人間の愚かさをシニカルに突いた一曲、曲調が穏やかなのが逆にメッセージを強調、してますかね。Dave Gregoryさんによる“Rick Wakeman風シンセ・ソロ”も聴けます。

War Dance」はもともと1983年頃出来た曲だということで、フォークランド戦争当時盛り上がったいわゆる“愛国感情”への批評が込められていたそうなのですが、湾岸戦争が起こったために92年においてもメッセージは更新され放たれることになりました。ベースとシェイカーが推進する単調なリズムの上に不穏なクラリネットが重ねられる、異色の曲。「Bungalow」は、オルガンがリードし、男声聖歌隊も登場する厳かな曲……ですが、「その歌は、英国の海辺で過ごす休暇のひどさを素晴らしいまでに要約していた」、「アンディいわく『コリンの最高傑作』」〔『ソングストーリーズ』〕だそうで。この曲がオルガンとスネアの音と共にそっと終わると、すかさず次の終曲で“Books Are Burning~”とAndyが歌い出すのですよ。やっぱり通した聴いた方が良い作品ですかね。


その他のAndy作も粒ぞろい。元気な「Dear Madam Barnum」、可愛らしい曲ながら実は展開の激しい「Humble Daisy」、Andyの娘さんHollyが揺り木馬に乗っている光景を歌ったという「Holly Up On Puppy」。力強い「Crocodile」(終盤の、歌詞にならない合いの手部分の声がPaul McCartneyみたい。Andyの声は時々Paulっぽく聴こえません?……Paulの「Listen To What The Man Said」を聴いたときなぜかXTCThe Mayor Of Simpleton」を思い浮かべてしまいましたほどなんですけど)。ピアノと弦楽(Gregoryさんの貢献!)そして管楽器が印象的な「Rook」。一風変わったリズムで賑やかな「Omnibus」は「五〇年代のロンドンの街を走るバスに乗っている雰囲気をウェストエンドのミュージカルに仕立てたものだ」〔『ソングストーリーズ』〕そうです。頭に残って離れなくて困るほどキャッチーなサビ。


「波」へのおそれを表現したというややヘヴィな「That Wave」(Dave Gregoryのギターソロも凄い)に続いてはプロデューサーGus Dudgeon一押しのポップで軽快な「Then She Appeared」(Andyの反対でシングルにはならなかったけど)。シングル、でいうと、「Wrapped In Grey」というAndyの自信作はいったんプレスされながらレコード会社が発売中止にしてしまったとのことです。こんなに美しい曲をめぐって人間の感情が悪化するんだから、不思議なものですな。「The Ugly Underneath」は、「表面のきれいさ」の「下に隠された醜さ」を歌ったもので、テーマは「結婚」と「政治家」だそうです。ホントこの人は毒のあることを耳の残るキャッチーで美しい旋律に乗せますなあ。これぞパンク!敬服します。


というようなわけで、通常ならアルバム二枚分くらいあるんじゃないかという充実ぶり。ぜひぜひ聴いてみて下さいませ。<続く!>