【思い出話】
以前第21回(2)のところで『THE NO.1 PUNK ALBUM』というオムニバスの名前を挙げたかと思いますが、その中にXTC「Making Plans For Nigel」という曲が入っておりました。「パンク」理解の浅かった購入当時、“パンクにしては”「全然スピード感がないなー」「なんか変わったバンド名と曲名だなー」とか思いつつ、なぜかその不思議なサウンドに魅了されたのでした。それで取り敢えず興味は持ったのですが、そのころちょうどCDショップにXTCの作品はほとんど並んでいなくて、アルバム単位で聴くことはなかなか出来なかったのです。
しばらくしてあるCD店へ行ったら、『THE GREATEST』といういわゆるベスト盤が出ていました。これは東芝EMIが出したシリーズもののベスト盤のひとつで、他にBryan FerryだのCulture Clubだの、GenesisだのRoxtetteだのがあったように記憶します。XTCのやつは、詳しくは後述しますが18曲入りで例の「Making~」も入っていたので「まずはこれだ!」と思って購入。いま思うとこの編集盤にもたいへんお世話になりました。
*左=Dave Gregory、右=Colin Moulding、下=Andy Partridge
一方で、オリジナル・アルバムがなかなか手に入らない状況は変わらず。XTCばっかり気にかけていたわけではないのですが、CD店に行くと洋楽の「X」の棚を覗いちゃあ、「無いな、やっぱり」を繰り返すという。ところがあるとき、普段は行かない店(輸入盤の多いところ。たぶんどっかのタワー・レコードだったと思う)に入った時、この(↓)アルバムを輸入盤で見つけたのですね。とにかくこれしかないんだから、くらいの気持ちで入手、さんざん聴きましたが、これが大当たり。件のベスト盤でもバンドの印象は良いものだったんですが、オリジナル作としてこれだけ質の高いものを送り出していたとはね。
XTCは時期によって楽曲の雰囲気を変えていて、それぞれに味わいがあるのですが、一般的に名盤といわれることが多いのは活動前期のものでは『BLACK SEA』(1980)や『ENGLISH SETTLEMENT』(1982)といったあたり、後期では『SKYLARKING』(1986)・『ORANGES & LEMONS』(1989)の人気が高いようです。あんまり『NONSUCH』派って聞かないような気がしますが、私は第一印象というか刷り込みのおかげでこれが好き。ちなみにその次に好物なのはファースト『WHITE MUSIC』(1978)だったりするんですけどね。(敢えて自ら分析すると、XTCの有する側面のうち、「ポップな美学」と「ロックな躍動感」の、後者の比重が高めなものが自分は好みらしい、です。そういう方はいらっしゃいませんかな?)『BLACK SEA』や『ORANGES & LEMONS』も含めてオリジナル・アルバムは全部集めていて――さらには、デモ集とかライヴ盤とかにも手を伸ばしたりして……――、もちろんそれぞれに「良いなあ」とは思うわけですが。
<今回取り上げる作品>
XTC『NONSUCH』(1992)
1. The Ballad Of Peter Pumpkinhead [AP]
2. My Bird Performs [CM]
3. Dear Madam Barnum [AP]
4. Humble Daisy [AP]
5. The Smartest Monkeys [CM]
6. The Disappointed [AP]
7. Holly Up On Poppy [AP]
8. Crocodile [AP]
9. Rook [AP]
10. Omnibus [AP]
11. That Wave [AP]
12. Then She Appeared [AP]
13. War Dance [CM]
14. Wrapped In Grey [AP]
15. The Ugly Underneath [AP]
16. Bungalow [CM]
17. Books Are Burning [AP]
※作曲者表記:[AP]=Andy Partridge作、 [CM]=Colin Moulding作
メンバー
Andy Partridge(Vo, Gt他)
Colin Moulding(Vo, Ba他)
Dave Gregory(Gt,Key他)
+
Dave Mattacks(Dr),Guy Barker(Trumpet),Florence Lovegrove(Viola)他
まずメンバーから確認しましょうか。XTCのリーダーでありメイン・ソングライターであるAndy Partridgeさん。XTCは基本的にはこの人の美学で貫かれたバンドといってよいと思います。ギタリストとしても(あまり目立ちませんが)非凡なものがあって、活動初期にギターが一本だったころはとりわけ八面六臂の大活躍(大袈裟?)でしたね。ちょっと他では聴かれないような妙なフレーズを繰り出してきたりします。
Colin Mouldingさんはデビュー時からAndyの相棒のベーシスト。活動を重ねるごとにたいへん練られたベース・フレーズを弾く様になっている印象があります。この人はソングライターとしてもすぐれていて、例の「Making Plans For Nigel」(バンドにとってほぼ最初の“大ヒット”シングルとなったのですが)もこの人の手になるものでした。Andyさんの曲がちょっと凝ったり皮肉が利いたり(楽曲構造も歌詞も)しているときに、Colinさんがフッと「素直にポップな」曲を出したりするんですね。そのバランスがXTCを“バンド”たらしめているのではないでしょうか。
Dave Gregoryさんは、サード・アルバム『DRUMS AND WIRES』(1979)から参加していますが、もともとAndyやColinとは昔馴染みだったようです。当時から楽器の扱いにかけては尊敬される腕前だったようですが、バンド加入後はギターの他にキーボードなどもこなし、場合によってはオーケストレーションのスコアを書いたりとアレンジ面でも大貢献されてきていました。
*左からDave,Colin,Terry, Andy
以上の3名が1992年当時の「XTC」メンバー。デビューから1983年頃まではTerry Chambersさんがドラマーとして正規メンバーで居たのですが、彼の脱退後はドラマーはセッション参加を仰ぐことになっています。本作では、Dave Mattacksさん。……『NONSUCH』を聴きだした頃は知らなかったんですが、いまになって「おおお!大物じゃないの、プログレ界隈じゃ知らん人のない名手じゃぞ!」と勝手に盛り上がる私。あとでちょこんとご紹介しますが、Fairport Conventionという英国トラッド・フォーク・プログレ集団で名演を残しているベテランなのです。
XTCのメンバーがその楽曲について回顧した『XTCソングストーリーズ』という本には「イアン〔・グレゴリー。ドラマーで、デイヴ・グレゴリーの弟〕は、マタックズがあるインタビューで、XTCと一緒にやりたい、と言っているのを読んだことがあったのだ。XTCは彼に会って気に入り、彼がジェスロ・タルとツアーに出る前の数週間を予約した。」【XTC&ネヴィル=ファーマー著・藤本成昌訳『XTC ソングストーリーズ』水声社2000年】とあります。XTCは、多少のヒットはあれ“売れっ子バンド”ではありませんでした――後期はレコード会社との関係も微妙だったと聞きます――が、ミュージシャンの間での評価は高かった、と。前作『ORANGES & LEMONS』の時もドラマーPat Mastelotto(Mr.Misterでデビュー、現在はKing Crimsonで活躍)のほうがXTCの大ファンで、気合いを入れていい仕事をバンドの為にしてくれたということですからね。