さ、そうこうしているうちにDavidさんは脱退してしまいましたよ(ソロ活動へ)。代わって入ったSammy Hagarさんは元Montroseのヴェテランで、歌のうまさは折り紙付きですが、バンドのカラーはやっぱり変わりますね。ベスト盤で無理やり通時的に聴くとなおさらよくわかる。「Hot for Teacher」なんていうデイヴィッド節全開のあとに、シンセサイザーを活用したミッドテンポの曲でサミーの朗々たる歌唱の映える「Why Can’t This Be Love」が来るんですからね。この曲はサミーもお気に入りのようで、自分(ソロ)のライヴアルバムでも何度も取り上げてます。この曲と、続く「Dreams」はサミー加入後のアルバム『5150』(1986)から。「Dreams」は、「Jump」の手法を昇華させたアップテンポのキャッチーなロックソングとなっております。この曲のサビの部分の開放感・爽快感はなかなか得難いもの。ギターが目立たないなあ、と思っていると、間奏の後半で凄いことになります。
12曲目の「When It’s Love」はキーボード主体のミドルテンポ歌モノ。アルバム『OU812』(1988)――アルバム名は「Oh, you ate one , too?」のもじりだとかなんとか――の収録曲。いわゆるいい曲ですが、「ロック」を求める耳には物足りなかったりして。いま聴くと良いんですがね。
しばらく良くも悪くも“産業ロック”の範疇に入りそうなキャッチー路線が続いた――少なくともベスト盤上では――わけですが、次の13曲目がイイ。電気ドリルを用いたオトで始まる「Poundcake」は、ワイルドなドラミングに派手なギター、16分の細かいベースライン、ヴォーカルの渾身シャウトが合わさった「これだあ」ってな名曲。ライヴヴァージョンも元気一杯で大好き。『FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE』(1991)冒頭に入ってます。同作からはピアノがリードする名曲「Right Now」もベストに採用。このアルバムはその他にもアップテンポでハイエナジーな「Judgement Day」だとか、ビッグなビートが心地好い「In ‘N’Out」、VH流王道ハードロック「Top of the World」などを収めていて素晴らしい。
VHが次のオリジナルアルバムを出すのは1995年。間にライヴ・アルバムの制作が挟まっているので、音沙汰なかったわけではないのですが、間隔は空きました。95年の『BALANCE』からは「Can’t Stop Lovin’ You」がベスト入り。確かにこの曲はヒットしていて、当時中学生だった筆者の周辺でもひたすら掛かっていた気が。キャッチーなラインを持つ曲ではあります。
あとの3曲が、オリジナルアルバムには未収録の所謂レア曲。16曲目「Humans Being」は映画『TWISTER』のサウンドトラック用に提供されたものだそうですが、コレの制作のあたりから今度はVan HalenオリジナルメンバーとSammy Hagarとの間で摩擦が増えたとか。事実として、Sammy Hagarはそのあとバンドを脱退します。「Humans~」は、いかにも彼ららしい――このミドルテンポはちょっと典型的すぎる気もしますが――曲なんですけど。あと、私が映画を観てないせいか、印象は弱いのですね。2分50秒くらいからのギターソロは、雰囲気がありますけど。
サミーと決裂したバンド側は、かつて喧嘩別れ(?)したDavid Lee Rothにコンタクトを取り、ベスト盤用の曲を吹き込みます。一曲が「Can’t Get This Stuff No More」、もう一曲が「Me Wise Magic」。前者はオルガンを重ねた、ゆったりしたシャッフル。Davidの歌声は変わってませんね。ギターソロのところでトーキング・ボックス(本ブログ第17回Peter Framptonの項を参照)がちょっと使われてたり。後者は、煮え切らないAメロ・Bメロの後に爽快・キャッチーなサビが配されるお得意のVHソング。
*ニューベスト『THE BEST OF BOTH WORLDS』
ご存知の通り、その後バンドは元ExtremeのGary Cheroneを迎えて『VAN HALEN Ⅲ』(1998)を作りますが、このラインナップは長続きせず。その後は、SammyやDavidが出たり入ったり、あるいはEddie Van Halenが闘病生活を送ったりでバンド活動は不安定になります。近年になってDavidが正式に復帰し、併せてベースもMichael Anthony――彼はSammy Hagarと共に活動することが多くなっていましたが――からWolfgang Van Halen(Eddieのご子息)に交替。オリジナルアルバムも出し、ツアーも行っております。動画サイトなどで観られる様子からするに、EddieもDavidも元気そうですね。一方のSammyもソロ活動の旺盛さでは並ぶもののないような活躍ぶり。Michael Anthonyはといえば、ChickenfootやTheCircleといったユニットでSammyと合流していたりと、やはり表舞台でまだまだ現役。うーむ、たいした方々ですな。皆さまでアメリカン・ロックの正道を守っていっていただきたいものです。〔後編へ〕