<名演紹介(後編)>
(5)Armageddon『ARMAGEDDON』(1975)
1曲目「Buzzard」からして強烈。冒頭のギターリフは、実はMartin Pughが在籍していたSteamhammerの第4作目――究極のアートロック作!実験的すぎてついていけない人多数?――『SPEECH』の1曲目(22分42秒ある)「Penumbra」という曲の3分20秒から5分10秒までのものを練り直したリフなのです。『SPEECH』(1972)はベーシストがLouis Cennamoで、プロデューサーにKeith Relfが入っているので、Armageddonのプロトタイプのようなところもなくはない。が、やはりバンドとしては別……何より、ドラマーが違うので。SteamhammerのMick Bradleyも味のあるドラマーだが、Bobby Caldwellのキレの良さは凄まじく、この「Buzzard」の前奏(歌が始まるまでに2分以上ある)など何度聴いても惚れ惚れ。で、歌が入るとおとなしくなるかというとそんなこともない。必殺キックとビシバシ決まるスネア(フラム多用)が心地好いことこの上なし。6分35秒あたりから繰り出されるRelfのハープもクール。
2曲目は浮遊感のある「Silver Tightrope」。アコースティックギターをフィーチュアしたドラムレスのバラード……なのは4分40秒までで、そこからボビーさんの伴奏も付きます。ちょっと音量を上げて聴くと、スネアの強弱や細かい刻みフレーズがわかって勉強になります。キース・レルフのドリーミーな歌唱も、エンディングのマーティン・ピューのスケールの大きなソロも良い。
3曲目「Paths and Planesand Future Gains」はこのアルバムの中では一番短い(4分32秒)。さきほど『CAPTAIN BEYOND』で「Frozen Over」について書きましたが、ちょっとアレに似てて、展開が多め。ピューさんもライノさんに負けないリフマスターですなあ。
4曲目「Last Stand Before」は、彼らにしてはわかりやすく(8ビートで)始まるポップな(??)曲。中間の妙に開放的な歌のパート、却って不気味で、またもや人間椅子の鈴木さんの歌うところみたいに感ぜられたり(どの曲の雰囲気かな……)。この「Last~」はリズム・テンポはほとんど変わらないのだが、各人が持ち楽器の技を競うがごとく繰り出すので、後半になるほど異常な密度とテンションになってゆく。再び申す、キースのハープが強力だあ。
最後に長篇組曲が控えております。5曲目「Basking in the White of the Midnight Sun」は4つのパートから成る大作であります。初めの「Waring Comin' On」という不穏さを告げるイントロのあと、一瞬の静寂があって激しいリフレインが繰り返される上をヴォーカルが(若干上ずりつつ)歌うメインテーマ「Basking in the White of the Midnight Sun」へ。テンポがややスローにチェンジされ、「Brother Ego」。ところでさきほどからベースの話をしていませんが、ルイ・セナモも名人・巧手でして、そのことはこのあたりでよくわかえます。そしてラスト2分、再度メインテーマ「Basking in the White of theMidnight Sun(Reprise)」となって終幕。Captain Beyondでも多用されたお得意の手法ですね。ほとんどヘヴィメタルという重さと激しさ。80年代だったら却って崇められたろうに、不運でした。再評価されてほしいサウンド。
(6)Captain Beyond『Dawn Explosion』(1977)
Armageddonが終わってしまった後、再結成したCaptain Beyondはアルバムを一枚出しました。Rod Evansは去っていましたが、代わりにヴォーカルをとったのがWilly Daffernという人。後にGary MooreのG-Forceというユニット(バンド)でも歌うことになる人です。ちょっとポップなハードロックを志向したGaryの要求にはマッチしていたと思うのですが、このユニットは長続きしませんでしたね。「You」や「Dancin’」は名曲なのでぜひどうぞ。
で、肝心の『DAWN EXPLOSION』ですが、どうかというと……いや、悪くないのですよ。ミステリアスなイメージは減りましたが、メンバーの力量は衰えていないですし、1曲目の「Do Or Die」なんかは躍動的なハードロックだし、2曲目「Icarus」はちょっとした展開のうまさが『CAPTAIN BEYOND』の1~3曲目あたりを思い起こさせます。ゆったりしたテンポの「Sweet Dreams」の後には、ドラムの小技が効きまくりの「Fantasy」。と、こんな具合で、聴き手を飽きさせない高品質ハードロック作品集。繰り返しになりますが、ライノさんのギターセンスは相当のものですよ。この人も過小評価じゃないかな。
最後の3曲(インスト)はどうやら組曲で、効果音的な「Space Interlude」から、本作中最もプログレ風味の強い「Oblivion」につながり、そこから最後の「Space Reprise」(やはり謎の効果音ぽい)に帰っていく。バンドは初心を忘れてないぜ、っていう意地ですかね。
(7)Johnny Winter And『LIVE AT THE FILLMORE』(2010)
『LIVE』の時期の発掘音源。向こうには入っていない「Guess I’ll Go Away」「Rock and Roll,Hoochie Koo」「Highway 61 Revisited」「Rollin and Tumblin’」が聴ける。また、「It’s My OwnFault」は22分の、「Mean Town Blues」は18分のヴァージョンを収録しており(それぞれ『LIVE』より長い)、当時のステージの雰囲気がより生々しくわかります。
(8)〔番外〕VARIOUS ARTISTS『THOUSAND DAYS OF YESTERDAYS:A TRIBUTE TO CAPTAIN BEYOND』(1999)
スウェーデンのRecord Heavenというショップ/レーベルが制作したトリビュートもの。90年代末のCaptain Beyond再結成の報をつかんだ関係者が、「やるなら今だっ!」てな思いで動かしたプロジェクトのようです。凝っているのは、適当に曲を募るのではなくて、ファースト『CAPTAIN BEYOND』をまることカヴァーするように各バンドに担当楽曲を振り分けて、編集後にはオリジナルと同じ曲順になるようにした……というのだからマニアック。
1曲目の「Dancing~」はアメリカン・ドゥーム・メタルの老舗Pentagramがヘヴィにカヴァー、2曲目「Armworth」はスウェーデンのRise and Shineが爆音でカヴァー、3曲目「Myopic Void」はイタリア出身のStandarteがほぼ忠実にカヴァー。「MesmerizationEclipse」はスウェーデンのLotusが元Thin LizzyのBrian Robertsonをゲストに迎えて仕上げ、「Raging River of Fear」はスウェーデンのプログレバンドThe Flower Kingsが斬新なアレンジでカヴァー……と。
14曲目以降はボーナストラックで、上と重複しないカヴァーが収められてます。セカンドから「Starglow Energy」、サードから「Sweet Dreams」(Willy Daffernがゲスト参加)。これもいいんですが、最高に面白いのはラストの二曲。16曲目はAbramis Bramaというグループによる「Fortrollande Formorkelse」、17曲目はQophというグループの「Dansar GaletBakat」。何だろう?と思うとですね、これらはそれぞれ「Mesmerization Eclipse」と「Dancing Madly Backwards」のスウェーデン語ヴァージョンなのですよ。演奏のアレンジも加わってますが、歌詞(ことば)が違うとこうまで印象が変わるのかと驚きましたね。むかあし、The Beatlesがドイツ語でシングルとかを出した(『PAST MASTERS』で聴ける)ことがありましたが。特にQophのヴァージョンは面白いなあ。あんまり気に入ったんで、この人らのオリジナル作品も探しました程でして。
なおこのトリビュートはご本人たち公認のものでして、ブックレットにボビーとライノからのコメントとして「私たちはこのトリビュートアルバムをありがたく思いますし、参加アーティストがやってくれた素晴らしい仕事に拍手をおくります」などと記されているのでした。ちなみに同じコメントに、「キャプテン・ビヨンドは、ディープ・パープルとジョニー・ウィンターとアイアン・バタフライの元メンバーによって1970年代に結成されたプログレッシヴ・ロック・バンドです。」とあるので、彼らの自己規定は「ハードロック・バンド」ではなくて「プログレッシヴ・ロック・バンド」であったことがわかります。
ま、このトリビュートからでも、オリジナルからでもいいんで、この素晴らしいグループの音楽を楽しんでくれる人が増えるといいですね。