<達人の物語(後編)>
1974年頃、セッション的な仕事にひと区切りを付けたボビーさん。こんど彼が集めた面々が、これまた強力でした。ギターのMartin Pugh(元Steamhammer)、ベースのLouis Cennamo(元Renaissance)、そしてヴォーカル・ハープのKeith Relf(元Yardbirds、元Renaissance)。これまた面子からするとフォークロックかサイケデリックロックか……と想像するところかもしれませんが、否。どうやら楽曲(作曲やアレンジ)のイニシアティヴはボビーさんとマーティンがとったようで、強力なハードロック(プログレ風味)に仕上がったのでした。楽器に関しては各人が達人中の達人(Keith Relfも、過小評価されている気がしますが、ブルーズハープの名人ですよ!)で、スーパープレイの連続。歌も、「超パワフル」というわけではありませんが、充分カッコいいし。(求む、Keith Relfの再評価。The Yardbirdsの時の線の細い歌唱のイメージがあり過ぎるのかもしれませんが、彼の魅力は他にある。)……ハードロック・アートロックの作品としてはかなり高水準の作品を送り出した彼らでしたが、時代がよくなかったのでしょう(パンクの爆発を目前に控えた“ハードロック下火時代”に入っていた)、さほどの成功は収められなかったようです。Relfはいち早くバンドを抜けてしまい、かつて自ら率いていたRenaissanceの精神を継承する別ユニットの活動を模索しますが、ギター練習中の感電事故がもとで亡くなってしまいます。Armageddonも再興の可能性は断たれてしまいました。
その後ボビーさんは再結成Captain Beyondに参加し、Lee&Rhinoのオリジナルメンバー及びニューヴォーカリストWilly Daffernとともに『DAWN EXPLOSION』という作品を出しますが、その後はほとんど音沙汰なくなってしまいます。80-90年代も曲を書いたりドラムを演奏したりということはあったというのですが。
90年代の末には、再再結成Captain Beyondが一部でライヴを行い、数曲入りのEPも作ったのですが、大々的な活動へとつながることはなかったようです。但し、バンドに対する再評価はこの時期にかなり強まった模様で、『THOUSAND DAYS OF YESTERDAYS』というトリビュートアルバムも出ました。
ボビーさんのオフィシャルサイトによると、最近ではJ.D.Blackfootの『THE LEGEND OF TEXAS RED』でドラムをたたいているそうです(未聴)。Captain BeyondはオリジナルメンバーのLeeとRhinoがそれぞれ2012年に亡くなってしまいましたが、名ドラマーBobby Caldwellのスーパープレイをどこかでまた聴きたいものです。
<思い出話>
吉祥寺駅の新星堂で『キャプテン・ビヨンド』っていうCDを見かけて買ったのが最初のはず。オビに「ディープ・パープルの初代ヴォーカリスト、ロッド・エヴァンスを中心に結成されたキャプテン・ビヨンドのデビュー作。」と書いてありまして、ディープ・パープルが凄い好きだった私は――といっても当時はMARKⅡとMARKⅢしか知らず、MARKⅠのロッドさん時代は聴いたことがなかったんですけど――引き寄せられてしまったのですね。ジャケットもなんか妖しい感じで「いかにもハードロックっぽい」気がしましたし。
聴いてみたら、私が慣れ親しんでいたハードロックに比べるとリズムが複雑なのに面くらいました(当時私はプログレ方面未攻略だったのです)ね。最初印象に残ったのはRod Evansの歌のうまさでした。Ian Gillanみたいなシャウトは全然ないですけど、ちょっと凝ったメロディを朗々と余裕で歌っているように感じたのですね。
しばらく経って――プログレなんかも聴くようになって――から聴き直してみると今度は、「このドラム、すげえや」って思うようになったんです。それでも、このBobby Caldwellさんって人が他で何をやっているのかはよくわからなかった。せいぜい『キャプテン・ビヨンド』のブックレットにあった「ジョニー・ウィンター・アンド」にいた、くらいでね。Johnny Winterは好きでしたが、ブルーズロック/ロックンロールというジャンル上、ドラムが目立つことはあるまいと思ってチェックもしてませんでした。
で、なんかのきっかけ(たぶんディスクガイドの類)で今度は「アルマゲドン」というグループをやってたらしいという情報をつかむのでありました。キース・レルフが歌ってるっていうのも興味がありましたので、一生懸命CDショップを探しましたところ、渋谷かどこかの大手輸入盤店で『ARMAGEDDON』を手に入れることができたのでした。こっちも最初に聴いたときはビックリしましたね。こんども最初のインパクトは歌。Keith Relfって線の細いイメージ(悪く言えば頼りない、よく言えば繊細な)だったんですが、轟音のハードロックの中で頑張ってるじゃありませんか。もう、一生ついていこう(亡くなってましたが……)と思いましたよ。The Yardbirdsも聴き直しましたとも。
肝心のドラムですが、Captain Beyond時代よりさらに磨きがかかって物凄いことになってました。これはもしや……と思ってJohnny Winter Andの『LIVE』もちゃんと聴いたら、そっちもドラムの存在感が物凄かった。決してギタープレイの邪魔をしてるんじゃないんですが、飾りじゃなく“音が立って”て、ドラムが楽曲を牽引してるんですよ。未チェックだった不明を恥じましたねえ。
その後インターネット時代に入り、いろんなアーティストの情報が得やすくなってからも、「どこかでボビーさんが叩いていたりしないか」けっこう真剣に検索したものです。The Allman Brothers Bandに客演していたことがわかったときは、その一曲聴きたさに2枚組CDも探しましたし、Johnny Winter Andの未発表ライヴが発掘されたときはやっぱりチェックしました。ドラマーが目当てで作品を求める人も多くはないでしょうけど。