前回Robert Johnsonだったので、今度はその「師」のSon House、などとも思ったのですが、同じジャンルの人が続くのは避けようと思い直しました。Houseさんはまたこんど。
これまでに取り上げていないジャンルの人、というので思いついたのが、ジャズ・フュージョン畑のギタリストSteve Khanさんでした。どちらかというと職人肌の人(地味ともいう?)なのですが、わたくし結構この人の出てる作品を持ってるんですよね。
Steve Khan氏は1947年ロサンゼルス生まれ。映画音楽やブロードウェイ戯曲への作詞で著名という作詞家Sammy Cahn(Khan)氏のご子息ですが、ギターを手にしたのは20歳ごろだったそうです。UCLAを卒業後ニューヨークへ移り、スタジオミュージシャンとして多くのアーティストの作品に参加します。
おそらく最初に名前が表に出たのは、Larry Coryellとデュオで『TWO FOR THE ROAD』というアルバムを出した時でしょう。同じころ、The Brecker Brothersにも参加しています。リーダー作としては1977年の『TIGHTROPE』を皮切りに、78年に『THE BLUE MAN』、79年に『ARROWS』と作品を発表していきます。作風を変えながらも、精力的・継続的にオリジナルを出し続け、今年(2017年)も新作を発表しています。
セッション参加した作品も数多く、とてもここではご紹介しきれませんが、ニューヨークを拠点としたためその周辺のミュージシャンとの交流が多いみたいです。今回あとでご紹介するのもほとんどそういう「ニューヨーク人脈」のもの。
<作品紹介>
Steve Khan『THE BLUE MAN』(1978)
1.Daily Bulls
2.The Blue Man
3.Some Down Time
4.The Little Ones
5.Daily Valley
6.An Eye Over Autumn(For Folon)
メンバー
Steve Khan(Gt)
Bob James(Kbd)
Michael Brecker(Ts)
Randy Brecker(Tp)
David Sanborn(As)
Don Grolnick(Kbd)
Will Lee(Ba)
Steve Gadd(Dr)
Ralph MacDonald(Perc)
David Spinozza(Gt)
Jeff Mironov(Gt)
Rick Marotta(Perc)
何とも豪華な面子。全編で鉄壁のリズムセクションを構築しているLee & Gadd。2曲目で印象的なシンセサイザーを奏でるBob James。ファンキー&メロウなナンバーで活躍するホーンセクションのBrecker兄弟にSanborn。各自が一国一城の主ですが、ここではプロデュースも兼ねるSteveのためにしっかり協力。この辺の面々とはライヴなどでもしばしば共演しておりますね。
1曲目は、ハードなギターが聴けるドライヴィングナンバー。基本ロック好きのわたくし大好物のオープニング。Khanさんのギターがたっぷり聴けるし、リズム隊の小技はきいてるし、で素敵なんですが、一番美味しいのは4分20秒ごろからのキーボードソロ。2分弱もソロをとらせるリーダーも器が大きいが、応えて見せるDonさんも見事。
浮遊感のあるキーボードで幕を開ける2曲目は、雰囲気も変わります。2分近くまでギターレスで、そこから満を持してメインフレーズを奏でていくSteveさん。よく聴くと、後ろで鳴っているパーカッションもいい味を出してる。
3曲目はこれまた打って変わって、ホーンのフレーズが印象的なファンキーナンバー。Lee & Gaddのタイトなリズムにブレッカー兄弟&サンボーンの繰り出すフレーズ、これがまず印象に残りますが、ここでもキーボードが意外に全体をくるんでいたり。アンサンブルの妙っていうやつを楽しめますね。当時このアルバムの曲はライヴで演奏されなかったんでしょうかね、あったら聴いてみたい。
4曲目はRandy Breckerのペンによるナンバーで、やはりホーンが活躍。David Sanbornによるサックス・ソロをフィーチャー。Steveの自作に戻り、5曲目「Daily Valley」。ここではアコースティック・ギターが印象的に使われています。Mainieriのマリンバとアコギのユニゾンとかね。
最後の曲は「For Folon」という副題が付けられていますが、これはアルバムジャケットの絵を描いている作者Jean-Michel Folon(ジャン=ミシェル・フォロン)さんに捧げられたナンバーとのこと。ベルギー生まれのアーティスト、フォロンさんは1934年生まれ(2005年没)で、Steve Khan作品のジャケットを多く手掛けていました。この曲は8分50秒近くあり、本作中最長のものとなっていますが、聴きどころもたくさん。Steveのギター、Michael Breckerのソロ、両者のバトル。また、次から次へとSteve Gaddがスリリングなドラム・フレーズを(特に終盤)繰り出すので、決して複雑な曲ではないのですがどことなくプログレ風な味わいも。