さて困りました。「Q」で始まるアーティストは多くない。先日「Queenはピンと来ない」とか言っちゃった。どうすれば、というときにい思い浮かんだのが“Qango”(クアンゴ)でした。プログレおたく以外には全然知られていないでしょうし、プログレおたくからは「わざわざ特筆するほどのもの?」と疑いを投げかけられそうではありますが……今回は切り口を変えて、「ビックネームをサポートする若手職人」にスポットをあてるという形で乗り切ろうかと思いまする。
さて、一応バンドであったQangoですが、ライヴアルバム一枚を残して消滅しています。その一枚とは。
<作品紹介>
Qango『LIVE IN THE HOOD』(2000)
1.Time Again
2.Sole Surviver
3.Bitches Crystal
4.DK Solo
5.All Along The Watchtower
6.The Last One Home
7.JY Solo
8.Hoedown
9.Fanfare For The Common Man
10.Heat Of The Moment
メンバー
John Wetton(Vo, Ba, Gt)
Carl Palmer(Dr, Per)
John Young(Kbd, Cho)
Dave Kilminster(Gt, Cho)
英国の“The Robin Hood & the Brook”なる場所で録音された実況盤でありまして、ご覧の通りWettonとPalmerの過去在籍バンド(Asia, ELP)の名曲+αから成っております。このあたりもあまり評価が上がらぬ理由……懐メロじゃないか、とね。それはそうなんですが、1999年当時彼らを取り巻いていた事情は結構つらいものだったようで、AsiaもELPも活動が見えない状況にあったそうなのです。そこで、「とにかくロードに出てみよう」と考えたベテラン二人が、John WettonバンドにいたJohn YoungとDave Kilminsterを迎え入れて立ち上げたのがQangoというユニットでした。
クアンゴは2000年の秋に、満員のライヴ会場をプレイして回った。……「〈Qango〉というのは、イギリスのスラングで〈政治スキャンダル〉という意味なんだ」とパーマーは言う。「私たちはひっそりと活動していた。目立たないツアーをして、たいして注目されはしなかったけれど、観客はとても暖かく受け止めてくれたよ」。〔デヴィッド・ギャラント著、金子みちる・宮坂聖一訳『エイジア――ヒート・オブ・ザ・モーメント』マーキーInc.2008年〕
確かに、この盤を聴いても、客の反応は悪くないみたいです。この活動で元気を取り戻したWettonはかつてAsiaを共に立ち上げたGeoff Downesとの共同作業“Wetton/Downes”“ICON”を成功させ、再結成オリジナルAsiaでも活動しました。Palmerも、2001年頃からトリオのCarl Palmer Bandを結成し、自らのパーカッションを軸に新たな表現を模索、そしてやはり再結成Asiaに参加して元気なところを見せています。ま、WettonさんとPalmerさんという「プログレ巨人」については機会を改めるとしまして、とりあえず本アルバムの感想を言っちゃいましょうか。
冒頭、ELP(Emerson,Lake & Palmer)の「Fanfare For The Common Man」のイントロのフレーズが流れますが、そこからつながって始まるのはAsiaの「Time Again」。名盤『ASIA』(1982)に収められていたロック・ナンバーで幕を開けます。続く2曲目も『ASIA』から。このヴァージョンの「Sole Survivor」では、終盤(後奏)にKilminsterの物凄い(派手な)ギターソロが聴けます。プログレのレビューサイトなどを拝見すると、こういう「弾きまくり」は概して評判が悪いみたいですが、……わたくしは基本がメタル野郎なので一向にかまわず。ちゃんとしたフレーズを弾けているのなら特に文句はありません。
3曲目はELPナンバーで、オリジナルは『TARKUS』(1971)に収録。ここではYoungが結構頑張っていて、ピアノとシンセサイザーで貢献。また、オリジナルには無かった派手なギターソロもKilminsterが追加。Greg Lakeが歌ってた曲をJohn Wettonが歌う。珍しい?……あ、73-4年頃のKing Crimsonで「21st Century Schizoid Man」をWettonが歌ってたか。
4曲目は、Kilminsterによるアコースティック・ギターソロ。最初「展覧会の絵Pictures at an Exhibition:Promenade」(ELPの演奏がやはり有名)のフレーズをちょっとつま弾いたかと思うと、ついでお得意の両手タッピングを繰り出していきます。2分ちょっとで幕。次はBob Dylanの「All Along The Watchtower」カヴァーで、Wettonもアコギに持ち替えてます。いま聴くとこのアルバムでちょっと面白いのはまずこれかなあ。
6曲目「The Last One Home」は、もともとYoungの作った曲だそうですが、9分近いドラマティックなナンバー。Wettonのベースがおとなしい分(?)、Kilminsterの速弾きギターが炸裂。Palmerさんも頑張ってるし、「いかにもなプログレ」も悪くないな。
7曲目はJohn Youngのソロ。エレクトリック・ピアノをメインに、電子Kbdも混ぜるスタイルは、AsiaのGeoff Downes風かな。ちょっとチープに聴こえるところもたぶん狙いなんでしょうね。
8曲目は、ELPの名曲「Hoedown」……なんですが、正直に言いますとこの曲は期待ほどではなかった。わたくし、この曲すごい好きなんですよ、オリジナルが。悪いけど、まずここではPalmerさんのリズム感がよろしくないと思われます。まあ、実はELP(70年代)の頃から、どういうわけかライヴではパーマーさんこの曲のグルーヴをころしちゃうことが多かったですけど。ウェットンさんも、King CrimsonとかU.K.では超がつく凄いベースプレイをバンバンかましてたんですけど、ここではどうということのない感じ。残念。他方で、若手は――空回りじゃないの?というほどに――頑張りまくり、Emersonさんに負けないぞってな気合いが立派なYoung、オリジナルには無かったギターフレーズをブチ込みまくるKilminster。なんだろうなあ、このちぐはぐな感じは。
9曲目もほぼ同じ感想。わたくし、この曲すごい好きなんですよ、オリジナルが。でもやっぱりパーマーのノリがあと一歩なのと、ウェットンの覇気のなさがねえ。いや、中盤にドラムソロが挟まれてて、そこでのパーマーの各種パーカッションを絡めたプレイはやっぱり大したものなんですよ。ただそれが、他のパート(特にベース)との一体感ということになるとどうも。やっぱりここでもヤンガー2は楽しそうに弾きまくり。ギターが入った「Fanfare~」は、かつて(1981年頃)Greg LakeがGary Mooreを自らのバンドに擁していた時にライヴで披露していましたが、それを思い出しますね。そっちもあんまりプログレファンからは評判良くなかったなあ。まあ、元曲とはがらっと雰囲気が変わっちゃいますからねえ。
ラストはAsiaの名曲「Heat Of The Moment」。ここだとパーマーの太タイコも、ウェットンの省エネベースも違和感なし。そうか、二人とも「あまりにもAsia仕様」だったといことかいな。Geoff DownesになりきってるYoung、Steve Howe(Asiaのオリジナルギタリスト)のフレーズを敢えて無視して様式美メタル速弾きに走るKilminsterと対照的ですが、若者が楽曲をチアフルにしていることは間違いない。このヴァージョンは悪くないと思いますがね。