DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

第15回「Nitro」(1)

 さ、そろそろわたくしがどうしようもないメタルファンであることを証だてようではありませぬか。

youtu.be

 

ヘヴィ・メタルとはいかなるものか?こんなことを問えば、返事は十人十色でありましょう。が、わたくしが思うにその最も重要な点は、「人力で出来る限りのことをやる」音楽であるという点にあります。「どんな音楽でもそうだろう」と言われれば、それはその通り。ただしメヴィ・メタルという音楽は、やろうとしていることが出来ているかどうかがかなりはっきりとわかるものです。音量を上げて誤魔化していたり、スタジオ作業で上塗りしていたりするのは、割とすぐに露見してしまう。それゆえに大抵このジャンルのミュージシャンは、まず最低限の技量を修得するのに努力するわけです。

 

さらにその上で重要なのは、その力量をどう披露するかということです。ここは賛否両論招くところかと思いますが、私見では、優れたメタル・ミュージシャンというのは必ず、修めた技を用いて、どこかしらユーモラスに思える表現を行うもの。身につけた技術を「どうだ!」を見せつけているだけではまだまだで、余裕を見せながら聞き手を「微笑ませる」ことが出来てこそ一流だと思うのです。

 

例えばJudas Priestにしても、ある時期から「メタル・ゴッド」なんて自称していますけれども――ヘヴィ・メタルファンでなければそもそも「?」でしょう――それが素敵なのは、彼らがその振る舞いによって「メタルって楽しいのよ」と示してくれてるから。大真面目に身を捧げるに値する「その音楽」を、些か戯画的になりながら見せてくれるのですから、聴き手は微笑まずにいられないのです。あるいは、Helloweenのように、メタルを通じて「ハッピー」なメッセージを送ることだってできます。この二つのバンドは、実際のライヴを観たことがありますが、わたくしも含め、観衆はみんな笑顔で会場をあとにしましたよ。ヘヴィ・メタルを聴いて「不愉快」になるとしたら、演者が聴衆かのどちらかが不調なのでしょう。

 

Manowarが「偽メタルに死を」なんて剣呑なことを言っていても愛されるのは、彼らがの音楽への姿勢が大マジであるうえ、その「誇張した表現」が一部の人々を確かに励ますことを理解しながらやっているから。以上を要するに、「真面目さ+ユーモア」がなければ、ヘヴィ・メタルはいけないのではないか、ということであります。デスメタルだろうがグラインドコアだろうが、多分そうでしょう。Napalm DeathにしてもCarcassにしても、ユーモアのセンスは一級ではありませんか。

 

世間のイメージ(もっとも、ひと昔前に比べると、冷たい目は少なくなったようではありますが)とは裏腹に、ヘヴィ・メタルは聴く人を「幸せに」する音楽である、はずなのです。わたくしの敬愛するメタル・バンド――ABC順に思いつくまま挙げればAnnihilatorCathedralCrimson GloryHelloweenImpellitteriIron MaidenJudas PriestRiotSatanSavatageTwisted Sister、そして聖飢魔Ⅱ――には、例外なく「真面目さ+ユーモア」が備わっておりまする。「そりゃあお前のただの趣味だろ」と言われればそれまでですけど……上述のバンド達は確かにわたくしを「幸せに」してくれましたよ。

 

と、信仰告白はこの程度でやめにして、本題に入りましょう。「いやあ、メタルって本当に良いものですね」と言わせてくれるアーティストの一人、それが今回の主役Michael Angeloさんです。フルネームはMichael Angelo Batio、ギタリストです。シカゴで育ち、13歳からギターを始めたという彼は、Led ZeppelinJimi Hendrix ExperienceKing CrimsonMahavishnu Orchestraに大きな影響を受けたといいます。大学では音楽理論と作品の学位を取ったとのことですが、この人はギターに関しては「教授」っていうよりは「大道芸人」的。実際、ギター教則のビデオなども出しているのですが、穏やかな語り口と確かな解説は「理論を学んだ」だけのことはあるなと思わせるのですが、「デモ演奏」でブッ飛んだ技を平気で繰り出すのでそちらの方が印象に残ってしまうという。「Speed Kills」という題目の映像を観ると、初めはまあよくある速弾きのレクチャーかなと思うのですが、途中からテンポが上がると、「アンジェロ・ラッシュ」(Wikipediaをご覧下さい)その他の技を連発。「教える気あるの?」――結局この人は、観てる人を楽しませたいっていうのが先に来ちゃうんでしょうねえ。

 

作品紹介に入る前に、Angelo先生の速弾きに関する考えをみておきましょう。「僕は『速弾き』が大好きさ!『速弾きにはフィーリングがない』なんて言う人がいるけど、それは間違いだね。メロディアスなスロー・プレイやブルースはそれはそれで良いし、僕だって少しはやるけど、とにかくジェット・コースターのようにハイ・スピードでアグレッシヴに吹っ飛んでいく感じなんて『速弾き』じゃないと表現できないだろ?そういう速弾きの若々しい攻撃感が好きなんだ。」(SHINKO MUSIC MOOK『ヤング・ギター・アーカイヴVol.2 特集:速弾王』2004年より)わたくしはこれを読んで、先生を尊敬することに決めました。
 
<作品紹介>
NitroH.W.D.W.SHot, Wet, Drippin’ with Sweat)』1992
 1.I Want U
 2.Cat Scratch Fever
 3.Crazy Love
 4.Hot, Wet, Drippin’ with Sweat
 5.Boyz Will B Boyz
 6.Turnin’ Me On
 7.Don’t Go
 8.Makin’ Love
 9.Take Me
 10.Johnny Died on Christmas
 11.Hey Mike(Guitar Solo)
メンバー
 Jim GilletteVo
 Michael Angelo BatioGt,Kbd
 with
Ralph CarterBa
Johny ThunderDr
 
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 先に言っときます。Nitroのアルバムはこの前に一枚、後にコンピが一枚ありますが、はっきり言って世間(メタルを聴く人の間ね)の評価はさんざんです。そしてそれらよりさらに低評価なのが本作。専門サイトのレビューなんかをちらっと見ると、「歌詞がしょうもない」「ヴォーカルがヒドい」……とな。コレがまるっきり的外れでもないのですけど……しかしわが持論からすると、少なくともこの人たちは「ちゃんと自力で演奏」しているし、「Angeloのぶっ飛んだギターワーク」「6オクターブの音域をもつ(んですって)Jim Gilletteのハイトーンヴォイス」は唯一無二のものではある。何より聴いてて楽しいんですよね。ま、わたくしのようにアルバムを購入するなんてことをしなくても音を聴く機会はイロイロありますから、皆様ご随意に。

 

 本当は、ファーストアルバムO.F.Rの方が、突き抜けた曲があって面白いのです。1曲目「Freight Train」は、キャッチ―なアップテンポのロックソングですが、合間合間にこれでもかとAngeloの速弾きが詰め込まれる。ま、そこまでならどうということもないのですが……この曲のミュージックビデオを観ると、ギターソロの始まる230秒のあたりからいきなり「ネックが4本あるギター」をAngeloが弾き倒す(まさに大道芸?)のだ。言葉だけだと「コイツ何言ってんの?」という感じだと思いますが、まあ観てご覧。映像がないと面白さは減少しますが、それでも「オッ!」と思わせる曲ではあります。(デモ・ヴァージョンが1998年発表のGUNNIN’ FOR GLORYで聴けますが、ソロやオブリなど少々違っております。)

 

 他に「Machine Gun Eddie」なんていうファスト・チューンもお薦め。「無茶なハイトーンで30秒近くスクリームするGillette」と「乗り物酔いしそう(?)な速さで弾き捲るAngelo」が楽しめまーす。ただ、アルバムが入手できておりませんのでO.F.Rはご紹介ができませぬ。セカンドH.W.D.W.Sはなんとか中古CD店で入手できたので、そちらをご案内する次第。

 

 ファーストからはベースとドラムが交替していますが、コアの二人は不変。音質はちょっとだけ良くなりまして、楽曲はよくいえばキャッチーに(悪く言えばブッ飛んだ感じが減少した様子に)なりました。Angelo流速弾きはもちろんありますが、1曲目や3曲目などは「歌モノ」として出来上がっています。7曲目や10曲目は、まあバラードなんでしょう、ソロ以外ではAngelo先生おとなし目。逆にギターが際立つのはファストナンバーの4曲目や11曲目。11曲目は55秒しかない「ギターソロ」トラックですがが、口の悪いレビューサイトでは「これが本作中一番の出来だ」とか言ってましたわ……。あ、2曲目はTed Nugentのカヴァーで、後年Panteraもやってましたね(Panteraヴァージョンの方が、出来は良い……)
((2)に続く)