今回は大物ですぞ。Jimmy Page(Led Zeppelin)もRitchie Blackmore(Deep Purple他)も頭の上がらなかった(?)“Lord”のお出ましです。……などといいつつ、この人は別に貴族じゃありませんでした。正真正銘のワーキング・クラスだそうですが、Lord Sutchと名乗って活動していたのですネ。
1940年生まれのSutch氏は、早くにロックンロールに接近した英国人の一人でした。米国のR&B歌手Screamin’ Jay HawkinsにインスパイアされてステージネームをScreaming Lord Sutchとした彼は、The Savagesというバンドを率いてシアトリカルなライヴを繰り広げていきました。その時の「当たり役」が「切り裂きジャック」に扮することだったといいますが、いわゆるショック・ロックとしてはかのAlice Cooperよりも早かったようです。音楽的には、シンプルなロックンロールが好みのようで、そこは60年代後半以降のアートロック時代に対応していなかったようですが。
この人は音楽以外でも英国では有名人でした。というのも、「政治活動」をずっと行っていたからです。60年代にはThe National Teenage Partyの候補として複数回の立候補をしていますし(落選しましたが)、83年にはThe Official Monster Raving Loony Partyという政党を立ち上げています。彼自身は当選したことはなかったようですが、活動は広く知られたようです。(OMRLPは現在も活動しているみたい。)1999年に、Sutchは亡くなりました。
<今回取り上げる作品>
Lord Sutch & Heavy Friends『HANDS OF JACK THE RIPPER』(1972)
1.Gotta Keep A-Rocking
2.Roll Over Beethoven
3.Country Club
4.Hands of Jack the Ripper
5.Good Golly Miss Molly
6.Great Balls of Fire
7.Bye Bye Johnny/Johnny B. Goode
8.Tutti Frutti Medley
a.Long Tall Sally
b.Jenny Jenny
c.Keep A-Knockin’
d.Jenny Jenny
e.Tutti Frutti
メンバー
Lord Sutch(Vo)
Ritchie Blackmore(Gt)
Keith Moon(Dr)
Noel Redding(Ba)
Matthew Fisher(Org,P)
他
Lord Sutchの十八番「切り裂きジャック」の怪演が聴ける本作。Lord Sutch & Heavy Friends名義では『LORD SUTCH & HEAVY FRIENDS』(1970)に次ぐ二枚目ですが、どうも両作とも「きちんと」作られたアルバムではなかったよう。ファーストは、Jimmy Page、Jeff Beck、John Bonham、Nicky Hopkins、Noel Redding他が名を連ねる作品ですが、PageやBeckは正式の作品を作ったという認識ではなかったようで、リリースについても快く思っていないかった――デモ的なセッションに参加しただけなのに「名前を使われた」という感じで――といいます。(それでも差し止めはできなかったみたいですが。)
一方の本作セカンドは、「コンサートみたい」に仕立てられていますが、どうも疑似ライヴのよう。BlackmoreとMoonとReddingとFisherが同じ舞台に立ったわけではなさそうなのですね。上のラインナップに「他」とあるのは、セッションミュージシャンが数人クレジットされているからでして、どこが誰の演奏かはちょっと判じ難い。
例えば1曲目はSutch作曲のロックンロールですが、「ちゃんとハイハットを叩いている」ことから、Keith Moonではなさそうなのです。一方この曲のギターはまず間違いなくRitchie Blackmoreでしょう。はっきり言ってこのギターソロは凄い。「ブチ切れた速弾き」というのはこういうのをいうのでしょう。歌のサビが終わった1分50秒あたりからすげえ速度で切り込んできて弾き倒し、後半はお得意の高速カッティングに移り、歌が戻るとやる気のない(笑)バッキングに戻るっていう。わたくしこれまでにもかなり変な嗜好に基づく断言を繰り返しておりますが、Blackmoreの最高のギターソロはコレだと思っているのです。「Highway Star」や「Burn」の構築されたソロは素晴らしいですが、「アレでも本気じゃないんだ……」と思わされるから。この曲後半にはローリングする素敵なピアノソロも聴けますが、クレジットが正しければこれはMatthew Fisherのもの。Fisherというと、Procol Harumの「A Whiter Shade of Pale」(「青い影」)におけるオルガンの名演が有名ですが、こういうロックンロール・ピアノもいけたんですな。
2曲目は、先日亡くなったChuck Berryの名曲の暴走的ヴァージョン。ところでさっきからLord Sutchの役割を全然話していませんね。彼はねえ……芸名で“Screaming”とか言ってるだけあって、隙あらば「ウギャー」とか「ワァー」とか叫びまくるんですよ。や、歌詞のある所はそれなりに歌ってますがね。パンクだよ最早。でも、バックがしっかりしてるから曲になるんですね。この曲はピアノとホーンセクションがいい味出してる。
ミドルテンポ3コードソング、3曲目もSutchの作曲。テンポはゆったりだけど、Sutchの歌い方がおんなじなので落ち着くことなどない。この曲も結構キレ気味のいいギターソロから、Sid Phillipsによるサックスソロへ。
そして、問題の4曲目。これが聴けることをありがたいと思わなければなるまい。「シアトリカル」というには“コケオドシ”感が強い変な曲だが、9分30秒以上ある。アクトレスとSutch =切り裂きジャックの小芝居(女性の叫び声、リッパーのイカレた笑い声が響き渡る!)、その背後で楽隊はジャジーなロックンロールを延々演り続けるのです。このギターフレージングもBlackmoreでしょうが、そもそもBlackmoreは60年代前半のThe Savagesに参加していたので、Lordの暴走に合わせるすべも心得ていたのでしょう。どっかで読んだ話ですが、The Savages時代には、ステージ演出で「BlackmoreがSutchにステージから突き落とされる」なんてのもあったそうですぜ。あの恐ろしいBlackmore(や、Rainbowなんかを追っていると、メンバーをとっかえひっかえしてるように見えるからそう思うだけなんですが)を「しもべ」に出来たのはLord Sutchだけでしょう。(対等の関係から掣肘できた人としてはJon Lordなどもいますが。)(続く)