有名バンドのメイン・ソングライターがソロ活動を行った場合というのは興味深いものです。すでに名声を馳せているバンドとは別の表現を求めている……のはわかるが、果たしてその必然性は?そして成否はいかに?
「K」関連のアーティストでいうと、Keith Emerson(ELP)やKen Hensley(元Uriah Heep)、KinksのRay Daviesなどがそういう人物といえましょうが、彼らのソロ活動はメイン・バンドが休止・終了したあとに行われていました。一方、今回取り上げるのは、「Kansas」のメインライター「Kerry Livgren」が同バンド在籍中に発表した『SEEDS OF CHANGE』。
Kansasについてはあらためて機会を設けたいのですが、プログレ的複雑さとロックンロールの快活さを絶妙にブレンドした楽曲と、各人の演奏技量の高さがこの名バンドの魅力。なかでも代表的ヒット曲「Carry on Wayward Son」「Dust in the Wind」などを書き、ステージではギターとキーボードをこなすKerry Livgrenという人の貢献は大でした。
そのKerry Livgren氏は1949年生まれ、カンザス州で生まれ育ちました。1960年代から70年代前半にかけて音楽活動を開始し、後にバンドKansasで共にデビューするPhil Ehart(Dr)やDave Hope(Ba)と知り合います。メンバーの出入りはいろいろありました――EhartとHopeが離れた時期にLivgrenが率いていたProto-Kawというグループの音源も残されています――が、彼ら三人にSteve Walsh(Vo,Kbd)・Robby Steinhardt(Vln, Vo)・Rich Williams(Gt)を加えて、Kansasはメジャーデビューを果たします。その後のことは「Kansas」を扱うときに述べたく存じますが、Livgrenがこのグループの音楽的中核であったことは確認しておきましょう。
<作品紹介>
Kerry Livgren『SEEDS OF CHANGE』(1980)
1.Just One Way
2.Mask of the Great Deceiver
3.How Can You Live?
4.Whiskey Seed
5.To Live for the King
6.Down to the Core
Kerry Livgrenはギター・ピアノ・シンセサイザーを受け持ち、曲によってはベース・オルガン・ヴォーカル・パーカッションまで担当する八面六臂ぶり。ただこの人は楽曲重視の人でして、「目立つギターソロ」とか「派手なキーボードプレイ」はほとんど無く、あくまで歌を引き立たせるために技を繰り出しているのでした。
このアルバムでは、Livgren以外は曲ごとにラインナップが異なっています。曲ごとにゲストを迎えたと言ってもよいでしょう。ハードロック・ファン大注目なのはRonnie James Dio(Vo)が二曲(2曲目と5曲目)で歌っていることでしょうか。あとわたくしのごときドラムファン(?)からすると、Kansasでの盟友Phil EhartのほかにBarrimore Barlowが参加しているのが嬉しい。一時期Jethro Tullに在籍し、Yngwie J. Malmsteen’s Rising Forceでも叩いていた名手!(Jethro Tullの『BURSTING OUT』(1978)というライヴ盤を聴くと、Barlowがトンでもない達人であることがわかりますぞ。それに、Yngwieの名曲「Black Star」や「Far Beyond the Sun」が最初に世に出たのはこの人のバックアップによってでした。後のバンドメンバーによるライヴヴァージョンがどうしても叩きすぎたりバタバタしてたりするのに対し、オリジナルのBarlowヴァージョンはツボをおさえていてエレガントなのだ。思うに、Barlowさんは手数より足、キックのポイントを大切にしてるからではなかろうか……)
上の他にも、KansasのSteve Walshがヴォーカルで、Robby Steinhardtがヴァイオリンで登場していますし、Mylon LeFevre(わたくしにとってはAlvin Leeとの協同作業が印象深い)が歌やコーラスで参加しています。
壮大なファンファーレに始まる1曲目は、早速Barrimore Barlowの細かなドラミングが心地好い。手と足のコンビネーションの見事さはSimon Phillipsと双璧……なんていっていとドラムだけがポイントみたいに聞こえてしまいますが、むろんさにあらず。Jeff Pollardの歌は堂々としているし、要所要所で決まるBobby Campoのトランペットはカッコ良いし、何よりLivgren作の展開豊富な曲が良い。本家Kansas以上にプログレ度高めで、本人によるコンパクトなギターソロやシンセサイザーを用いたオーケストレーションも完璧。
2曲目は、期待を高めるシンフォニックなイントロ、Livgrenによる前奏ギターソロが二分ほど続いた後、満を持して歌へ。御大Ronnie James Dioは静かに歌い出すのですが、Livgren作の起伏に富んだメロディを歌ううち熱くなって参ります。Dioは当時Rainbowを脱けてBlack Sabbathに入ったところ(『HEAVEN AND HELL』がちょうどリリースされていた)で、歌唱は絶好調。全キャリアを通じても屈指の名演が聴けるといっても過言ではありますまい。「Ronnieのベスト歌唱は?」と聞かれたら、わたくしは、(ちょっと迷って……)この曲を推します。
Kansasの仲間Steve Walshが歌う3曲目は、前二曲よりは軽快な感じもあります。が、分厚いコーラスやところどころに入るシンセサイザー(played by Livgren)がシンフォ味を増加。なお、3曲目まではBarlowがドラム。
Livgren自身とMylon LeFevreがヴォーカルをとる4曲目は、ここまでとちょっと異なるテイスト。ハーモニカとスライドギターから入る「ウェスタン風」の曲かと思いきや、ヴァースの歌はなにがしかの民族音楽風にシンプルなパーカッションの反復の上に。Bメロはミッドテンポのロック、かと思うと間奏はやや複雑な拍子になり……こういった展開はLivgrenの十八番か。ドラムはKansasのPhil Ehartです。
Davy Moireという人がリードヴォーカルをとる6曲目も、ゆったりとしたテンポで進む曲です。地味な感じもあるのですが、間奏のあたりから、ドラム(Barlow)やホーン(Bobby Campo)が小技を決めてくる上に、サビにリフレインされるフレーズ「Down to the core」(コーラスのVictoria Livgren――Kerry Livgrenの妻――による)が耳に残る不思議な曲。
最終曲は、8分半を超える大作。David Pack(Ambrosiaにいた)が歌い、Phil Ehartが叩き、Livgrenはギター・ピアノ・シンセサイザーで大活躍。KansasのRobby Steinhardtもヴァイオリンで参加してます。前半は穏やかに始まるのですが、だんだん盛り上がっていき、終盤2分ほどの「フィナーレ」部分は圧巻。アルバム通して聴くと、1曲目のオープニングと呼応しているようにも思える、見事なエンディング。騙されたと思って聴いてみていただきたい作品です。なおこの「Ground Zero」は後に、Flagshipというユニットがカヴァーしていますが、「御本人登場」状態でKerry Livgrenがギターソロを提供していたりします。