今回は、あんまり詳しくは存じ上げないアーティストの作品になります。ニューウェーヴ(80年代の)であるとかシンセ・ポップとかいうジャンルは小生門外漢でありまして、基本的な知識もおそらく欠いております。それなのになぜGary Numanなのか?まずはその辺から申し上げます。
<思い出話>
第1回で既出なのですが、『PUNK AND ITS AFTERSHOCKS』という映像作品がありました。パンク・ニューウェイヴのグループが(いま思うと画質はあんまりよくないですが)たくさん観られる、ロック初心者のわたくしには教科書のようなものだったのですが、そのなかで、何か異質なパフォーマンスを繰り広げてる人たちがいました。他のパンクバンドみたいに激しく演奏してもいない、それどころかヴォーカリスト以外はどこにいるのかもわからない。全体に暗いステージ、飛び交うシンセサイザーの音、妙にナルシスティック(に見えた)なシンガー……。「???」だったわたくし。ちなみにその曲は「Down in the Park」といいました。
その後かなりあって、まったく別の場面でGary Numanの名前を聞くことになりましたのです。かなり記憶が怪しいのですが……FM FUJI(だったと思うんだが)で昔やっていた「エルヴィス・フォーエヴァー」という番組が好きでよく聴いてたんですが、その後番組かなんかで、Gary Numanが紹介されたんですね。そのときはDavid Bowieとの対比とか、Marilyn MansonがNumanをリスペクトしてるとかそんな話をDJの人がしていたように思います。別にMansonファンではなかったわたくし(いまでもアルバム一枚持ってない……すみません)なので、それが決め手というわけではないのですが、どうも気になって調べてみたら、あの『PUNK AND~』の妖しい人ではないですか。やっぱりアルバムを探して聴いてみようということに相成るわけで。くだんの「Down in the Park」の入った『REPLICAS』という作品にようやく到達いたしました。
<作品紹介>
Tubeway Army『REPLICAS』(1979)
1.Me! I Disconnect from You
2.Are ‘Friends’ Electric?
3.The Machman
4.Praying to the Aliens
5.Down in the Park
6.You Are in My Vision
7.Replicas
8.It Must Have Been Years
9.When the Machines Rock
10.I Nearly Married A Human
メンバー
Gary Numan(Vo, Kbd, Gt)
Paul Gardiner(Ba)
Jess Lidyard(Dr)
楽曲とプロデュースはNuman自身。そのGary Numanは1958年生まれで、いくつかのバンドで活動した後Paul Gardinerと共にTubeway Armyを結成したということです。ドラムのJess LidyardはNumanの叔父にあたるそう。78年発表の『TUBEWAY ARMY』はあまり売れなかったとのことですが、79年に入ってから出されたシングル「Down in the Park」「Are ‘Friends’ Electric?」がヒット。後者は全英1位となり、セカンドアルバム(本作)もアルバムチャート1位に。
なお、わたくしの拝見したライナーノーツによると、Gary Numanはかつて「Ultravoxのパクリ」、「UltravoxとDavid Bowieを足したようなもの」といった非難を受けたのだそう。BowieはともかくUltravoxよくわからないんで、それが的を射ていたのかわたくしには判断できませんが、どうなのでしょう。詳しい方のご教示を待ちたいです。
さて、アルバムとしては。ヒット曲(2)、わが思い出の曲(5)はやはりキャッチ―で良いですね。(2)なんかは典型的ですが、全編をリードするシンセサイザーの音と、エフェクトのかかったギターの音、Numanの歌い方が「無機質さ」を演出するんですが、ベースとドラムが――ごくごくときおりヨレるように聞こえる――「人力リズム」なので、そこが不思議なウォームさになっていていい感じ。打ち込みだったらもっと正確だろうけどつまらなかったでしょうね。(5)は歌詞も不思議な感じ。この辺の曲は、ライヴでも十八番。
(1)は、イントロとアウトロに配された印象的なシンセ・フレーズが耳に残りますし、ギター・リフが曲を引っ張る(3)や(6)、(8)では、トラディショナルなロックとの接点を感じます。(6)は特に、The KinksやThe Who風のビートロックをニューウェーヴィーにやるとこうなる、という見本のような感じで意外に好き。(7)はテンポを落としてスケールを感じさせる一曲。ちょっと可愛らしい(9)と最後の(10)はインストゥルメンタル。(10)は、ぜひどこかのプラネタリウムで使ってみてほしい。絶対夜に聴くべき――できれば夜空が見えるとよいが、せめて部屋の明かりを消して聴くべし――、雰囲気の最高な曲。本編はこの曲で余韻たっぷりに終了。
わたくしの持っているCD版は、このあとに6曲のボーナストラックを追加(シングルB面およびアウトテイクス)。「I Nearly Married A Human(2)」っていうのもあって、こちらの方では終盤に“I nearly married a human…I nearly married a human…”というつぶやきが聴きとれます。
<今回取り上げた作品>
(1)Tubeway Army『REPLICAS』(1979)
ちなみに本作はTubeway Army名義では最後の作品。同年の次作『THE PLEASURE PRINCIPLE』からはGary Numan名義になります。(ベースのPaul Gardinerはずっと在籍。)
(2)Gary Numan『RECONNECTED:LIVE ‘N’ MORE』(2003)
80年代のヒット曲集プラス84年のライヴからなる二枚組。84年にもなると手慣れたものでライヴ演奏もこなれていますね。「Are ‘Friends’Electric?」なんかでは聴衆の大合唱が起こったりもしているのですが、2分44秒のあたりではいきなりNumanが歌いながら吹き出して笑ってしまってもいます(そのあと歌詞が少し変化している様子もある……何が起こったのでしょうか?)。「Down in the Park」などのほか、ヒット曲「Cars」のライヴヴァージョンも聴けます。
さいぜん申しましたように、ニューウェイヴ界隈はわたくしの弱点なので、いろいろ教えていただけるとありがたいです。では、また。