<思い出話>
プログレッシヴ・ロックのディスクガイドで見かけたのが最初だったかと思います。「悪魔の呪文」という奇想天外な曲がある、という記述か何かを目にして、当時ヘヴィメタルづいていたわたくしは「悪魔の」とかいうフレーズに妙に惹かれながらも、「まあ、奇想天外といってもそれほどのことはあるまいて」などとタカをくくって『MOVING WAVES』に手を出した、と。で、まあ聴いてびっくり(以下省略)。
はじめは曲芸的な楽しさばかりに耳がいっていたのですが、通して聴くと全体としては優雅で緻密な作品との印象が強まり、もっと聴いてみるべいということになりました。だいたいわたくしは、気に入ったアーティストがあると、その人たちが「どういうライヴをやっていた(いる)のか」ものすごく気になる性質でして、持ち物にもライヴ盤が異常に多いのですね。
さてFocusには『AT THE RAINBOW』という作品がありまして、全盛期の記録として珍重されてきたのです。7トラックしか収録がない(たぶん当時のステージの全容ではない)のは残念ですが、ThijsとJanの双頭バンドとしての姿を捉えた公式作品はこれだけです。全体にワイルド(粗め)な演奏という印象ですが、オリジナルよりも疾走った「Hocus Pocus」の大盛り上がりはやっぱりすごかった。曲中Thijsが歌唱(ヨーデル)とからめてメンバー紹介をするくだりが最高で、この人たちの本領は大道芸人的なサービス精神にあるのだと感じた次第。「プログレのコンサート」ってノリにくそうだなあと勝手に想像してたんですが、そうでもなかったのね。ちなみに本ライヴ盤は「Hocus Pocus」の後、『FOCUSⅢ』に収録されシングルヒットにもなった名曲「Sylvia」に移り(珍しく名手Jan Akkermanのミスタッチが聴ける?)、そこからつながる形で「Hocus Pocus(Reprise)」へなだれ込んで終わります。
まあそんなわけで、一層気になるバンドになったわけですね。必ずしも全部のオリジナルアルバムを集めたわけではないんですが。Akkermanのソロや、元メンバーの参加作、近年の再結成作なんかも気になってチェックしておるわけです。
<今回取り上げた作品>
(1)Focus『MOVING WAVES』(1971)
(2)Focus『AT THE RAINBOW』(1973)
メンバーは、ベース(Bert Ruiterに交替)を除き、『MOVING WAVES』と同じ。
(3)Focus『HOCUS POCUS: THE BEST OF FOCUS』(1993)
70年代の名演をまとめて聴ける16曲入りベスト盤。というだけでなく、16曲目には「Hocus Pocus(U.S.Single Version)」が入っていてお得。こちらは3分25秒なんですが、ただ短くしたものではなく再録でありまして、ギターやドラムのフレーズがかなり違います。
(4)Jan Akkerman『LIVE』(1978)
Focusを脱退してソロに転じ、1978年にモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに出た際の実況録音。Focus時代の「Tommy」(「Eruption」の一節を独立させたもの、『AT THE RAINBOW』でも披露)もやってます。
(5)Trace『TRACE』(1974)
やはりオランダが誇る、Rick van der Linden率いるTraceというグループがありました。そのファーストアルバムに、元FocusのPierre van der Lindenが参加。Pierreっていう人は、「ハイハットの代わりにライドをたたき続けるので、うるさい(笑)」との評を何かの本で読んだことがありますが、その通りでした。『TRACE』は、強いて似ている型を探せば、Emerson Lake & Palmerということになるのかな。キーボードが主役……あ、強力なヴォーカルナンバーは別に無いので違うか。従兄弟同士というダブルvan der Lindenが各々のパートを押し出しまくるさまが痛快でございます。ひとつながりの1曲目から3曲目、「Gaillarde- GareLe Corbeau- Gaillarde」をお聴きください。