世界各国にはまことに素晴らしき音楽人がいるものです。オランダという国は、人口1500万前後(1970-2010年代)ですが、Venus他で有名なShocking Blue、Golden Earring、Earth & Fireをはじめ名バンドを数々輩出してきていますね。そんな中でも1970年代に国際的な認知と支持を得たのがFocusです。
Thijs van Leer(Vo, Flt, Org)とJan Akkerman(Gt)の双頭バンドとして出発したFocusは、70年代前半に多くの名盤・名演を残しています。Akkermanが76年に脱退してソロに転じてからはバンドFocusは失速し、78年に解散します。その後80年代・90年代に一時的な復活もありましたが、Focus名義での活動をThijsが活発化させるのは2000年代に入ってからのことになります。現在もオリジナルメンバーのThijs、全盛期のドラマーで復帰組のPierre van der Lindenを中心に頑張っているようです。
<作品紹介>
Focus『MOVING WAVES』(1970)
1.Hocus Pocus
2.Le Clochard
3.Janis
4.Moving Waves
5.FocusⅡ
6.Eruption:Orfeus-Answer-Orfeus-Answer-Pupilla-Tommy-Pupilla-Answer-TheBridge-Euridice-Dayglow-Endless Road-Answer-Orfeus-Euridice
メンバー
Thijs van Leer(Vo, Flt,Org他),
Jan Akkerman(Gt,Ba),
Cyril Havermans(Ba),
Pierre van der Linden(Dr)
*プロデュースはMike Vernon(John Mayall & the Bluesbreakers, Ten Years After, Fleetwood Macなどを手掛けていた)
1970年のデビューアルバムに続く2作目が『MOVING WAVES』(本国オランダでは当初『FOCUS Ⅱ』のタイトルでリリース)ですが、発表当初はさほど話題にならなかったとのことです。1972年のレディング・フェスティヴァルへ出演してバンドは注目を集め、その後英米のレコード会社が相次いで「Hocus Pocus」をシングル発売したことで火が付き、アルバムもヒットした……という経緯だったそうです。オランダのバンドがインターナショナルなマーケットでどう成功したのかは、興味深いですね。やはり「ライヴ・パフォーマンスが大事」ということでもありましょう。
(追加で調べてみたところ、1972年のレディング・フェスティヴァル(Reading Festival)は、Curved AirやGenesis、Matching MoleやFocus(プログレッシヴ・ロック系)のほか、NazarethやSteamhammer、Status Quoなど(ハード・ロック系)、さらにはThe FacesやJohnny Otisなど幅広い面々が出演していたことがわかりました。凄い時代だ……)
さて、『MOVING WAVES』というかFocusというバンドのある意味代名詞となっている一曲が、さきに名前の出た「Hocus Pocus」(邦題:悪魔の呪文)です。まあ有名な曲なので、すでにご存じの人もいらっしゃるかもしれませんが、「どうやってこういう曲を思いつくのか?」不思議ですね。イントロは、力強いハード・ロック風のリフで始まり、ドラムとベースが重なって疾走を始める。「歌が始まるかな?」と思っていると、オルガン伴奏つきで謎のヨーデルが唱えられ(邦題はここから連想したんでしょうねえ)、あっけにとられているとまたギター主体の鋭いインストパートに戻る。こっちがメインなのか……と安心するのもつかの間、今度は奇妙な裏声&早口(テープの早回しのように聞こえるんですが、ライヴでも同じようにやっているんでThijs先生の人力です)で「呪文」が……。目まぐるしく展開する中で、メインリフは同じながらギターやドラムは毎回フレーズを変えてくるし、ある時はフルート、ある時はアコーディオンを繰り出すThijsは芸達者だしで、息をつく間もないうちに過ぎ去ってしまう6分40秒。この曲の説明は、文字でするのは限界がありますね。とにかく!聴いてみていただきたいです。なお余談なんですが、NWOBHM(New Wave of British Heavy Metal)の雄Blitzkriegの名曲「Blitzkrieg」(1980年作)のリフを聴いたとき、「何だか聴いたことがあるような?」と思ったのですが、これでした。もちろん、全体は別に似てないのですが。ロックにおける「リフ」のインパクトって大きいなあ。
で、他の曲もそういう感じなのかと思うとさにあらず。2曲目はアコースティック・ギター中心のインスト小品。後半はメロトロンが加わって盛り上げますが、エレガントな雰囲気は崩さず。この1曲目と2曲目が同じバンドの演奏とは……。
3曲目はフルートがメインに活躍するやはりインストゥルメンタル。バックのドラム・ベース・ギターのサポートが絶妙。4曲目「Moving Waves」はピアノで始まるヴォーカル曲。作曲者にThijsと並んで「Inayat Khan」とあるのですが、これはスーフィズムの指導者であり音楽家でもあった人の名で、この人の詩(または著作の一節?)にThijsが曲を付けてできたのがこの曲のようです。5曲目はAkkermanのギターが全面にフィーチャーされたインストゥルメンタル。全体のテンポはゆったりしていますが、展開する部分ではドラムが激しく鳴っていたり。
多彩なグループだなあと思うのはまだ早かった。最後の6曲目に控えているのが、23分を超える組曲「Eruption」です。各パートに名前が付いており、作曲者もそれぞれ異なるのですが、通して聴いても冗長な感じが無い。緩急の付け方がうまいのでしょうね。20分近い曲というと、Procol Harumの「In Held ‘Twas In I」やELPの「Tarkus」、Yes「Close To The Edge」なんかが思い浮かびますが、ああいったプログレの代表的大作にも引けを取らないと思います。ライヴでは抜粋版が演奏されることが多かったようです。あと、いま気づいたんですが、Van Halenのデビューアルバムに「Eruption」というインスト(Eddie Van Halenの速弾きとタッピングが衝撃的な)がありますが、何か縁があるのですかね。付言しておくと、Van Halen兄弟はオランダ出身で(一家のアメリカ移住は1962年とのことですが)、EddieはギタリストJan Akkermanのことを尊敬してやまないとのことですが……