かような趣味丸出し文章でも、お読みくださっている方がいらっしゃいますようで、ありがたいことです。さて、今回からマイナーチェンジを試みようと思います。前回までは欲張って「アーティストの(キャリアのほぼ)すべて」を紹介しようとしてしまっていたのですが、やたら長くなるうえにまとまりを欠きがちでしたよね。第6回からは、中心になる作品は一つに絞るようにしたいと思います(前回までは「春休みスペシャル」ととらえてくださいませ。)
今回は、当ブログの名前の由来を明かさせていただきますよ。
<作品紹介>
Eric Burdon & The Animals『THE TWAIN SHALL MEET』(1968)
曲目(Written by Burdon/Briggs/Weider/Jenkins/McCulloch)
1. Monterey
2. Just The Thought
3. Closer To The Truth
4. No Self Pity
5. Orange And Red Beams
6. Sky Pilot
7. We Love You Lil
8. All Is One
メンバー
Eric Burdon(Vo),
Vic Briggs(Gt),
John Weider(Gt,Vln),
Barry Jenkins(Dr),
Danny McCulloch(Ba,Vo)
「朝日のあたる家House of the Rising Sun」などで有名なThe Animalsというグループが英国にありました。Eric Burdonという人はそのリードヴォーカリストで、1964年のデビュー当時から歌のうまさは定評がありましたが、バンドの音楽的主導権を握っていたわけではありませんでした。(当初はオルガニストAlan Priceの力量が大きかったようです。ちなみに、ベーシストのChas Chandlerはマネージャー・プロデューサーとしてJimi Hendrixを“発掘”し英国へ連れてきたことでも知られる人。才人揃いというわけですね。)
オリジナル・アニマルズは数々の名曲を残しますが、1966年に解散します。Eric Burdonは『ERIC IS HERE』(1967)という事実上のソロアルバムを出した後、新しいバンドとしてEric Burdon & The Animalsを結成します。メンバーは『THE TWAIN SHALL MEET』にもクレジットされている5人。The Rolling Stonesの「Paint It, Black」のハードなカヴァーを含む第1作『WINDS OF CHANGE』(1967)で、Burdonはそれまでのブルーズ・ポップ・ロック路線から、サイケデリック・ロック、ハード・ロックにシフトしています。BurdonはJimi HendrixやJefferson Airplaneとも交友関係があり、アメリカ西海岸のいわゆるフラワー・ムーヴメントに刺激を受けていたようです。
その彼がバンドと共に送り出した第2作が今回の『THE TWAIN SHALL MEET』です。英語に詳しい人に教えていただきたいところですが、”Never the twain shall meet.(二つは〔水と油のように〕決して交わらない)”という表現があるそうですね。それをもじって「二つがあわさる」といっているのでしょうか。
1曲目の「Monterey」は、1967年に開催されEricもバンドと共に参加したモンタレー・ポップ・フェスティヴァル(The Monterey International Pop Music Festival)のことを記念した曲。フェスに集ったアーティストや観衆を称え、音楽の力を高々と宣言する一つの「賛歌」となっています。この中に「You wanna find the truth in life, don’t pass music by . And you know,I would not lie.」という一節が出てくるのですね。「人生の真実をつかみたいなら、音楽のわきを素通りしてはいけないよ」。(できればもっと詩的に訳したいんですが……。)「本当さ」と念押しするところまで含めてEric Burdonの叫びに胸を打たれます。
なおBurdonは2010年代の今日に至るまで音楽を愛し歌を歌い続けているのでありまして、信念の貫徹という点で本当に尊敬に値します。「Monterey」の音(曲)のほうは、力強いベースラインとシタール風のギター(シタールそのもの?)が印象的なロックソング。フェスに登場したアーティストたちの名前(The Byrds、Jefferson Airplane、Ravi Shankar、The Who、Hugh Masekela、The Grateful Dead、Jimi Hendrix)を挙げ、彼らの音を模倣したフレーズ――Ravi Shankarならシタール、The Whoは歪んだフィードバックのギター、Hugh Masekelaはトランペット……――を挟み込む。(「フレーズ模倣」というと、Chris Speddingの「Guitar Jamboree」とか、Shuggie Otis「Shuggie’s Boogie」の冒頭とかを思い出しますなあ。余談。)まあ、聴いていただいた方がよくわかると思いますが。当時ヒットしたというだけではなく、Burdon自身も思い入れのある曲のようで、その後もよくライヴで演じられています。1998のライヴ映像作品『LIVE AT THE COACH HOUSE』でも、元気に歌う姿が観られますよ。
このアルバムでは他に、6曲目の「Sky Pilot」がベトナム戦争当時の反戦歌として有名になりました。Burdonが朗々と歌うミッドテンポの明るいロックなんですが、中間部分で空戦・爆撃の効果音が挿入されます。その音がフェイドアウトすると歌が戻ってくるのですが、そこに壮大なオーケストレーションが加わって曲はクライマックスを迎えます。アルバムヴァージョンは7分以上あるのですが、シングルではPart.1とPart.2に分けて片面ずつ収録されたようです。(長い曲を二つにぶった切ってシングルにする、っていうのは、King Crimsonの「The Court of the Crimson King」なんかでも行われた手法です。アーティストの意向よりレコード会社の都合によるみたいですが。)
上記二大名曲の他も、フルートやヴァイオリンの入るフォーキーな2曲目、ちょっとだけThe Doorsの「Love Me Two Times」を思わせるメインリフ(ギター、ベース)が印象的なサイケ・ブギの3曲目、全編シタール(またはシタール風ギター)とチェンバロ、パーカッションをバックにBurdonが歌う4曲目、Danny McCullochの歌うのどかな5曲目など、楽しめる曲が揃っております。スタジオ・アルバムとしてかなりいろいろな(バンド以外の)音が重ねられているのですが、メロディのキャッチーさがきちんとあるので、難解・珍妙にはなっていません。先述の『LIVE AT THE COACH HOUSE』では本アルバムから「Monterey」と「Sky Pilot」がピックアップされていますが、そこではもちろん効果音やオーケストラの音は無いアレンジで演奏されています。それでも違和感ないのは、もともとの曲の良さとBurdonのヴォーカルの説得力のためでしょうね。
なお、この後バンドはメンバーチェンジを経て『EVERY ONE OF US』と『LOVE IS』を発表しますが、1968年末には解散してしまいます。BurdonはアメリカのファンクバンドWarとのジョイント、The Animalsの再結成、ソロキャリアの追求……と活動を続けます。このほかEric Burdon & The Animalsの最終ラインナップには、Andy Summersというギタリストがいました。彼はこの後Soft MachineやJon Lord、Kevin Ayersなどの作品やライヴに協力しますが、1978年デビューのThe Policeで一躍有名になります。King CrimsonのRobert Frippとユニットを組んだり、Soft MachineにもいたJohn Etheridgeとアルバムを作ったりとけっこう幅の広い活動をしている人で、追いかけると面白いのですが、こちらはまた後日に。