232
Billy Cobham「Quadrant 4」(『SPECTRUM』1973)
前回の主役ジョン・マクラフリンが主宰したマハヴィシュヌ・オーケストラのドラマーだった凄腕Billy Cobham……のアルバムからですが、今回注目するのはそのギタリストTommy Bolin。
アメリカのバンドZephyrやJames Gangを経てRitchie Blackmore脱退後のDeep Purpleに加入(ほぼ同時期ソロも発表)した人。Ritchieの後釜というなんともやりにくい立場に立たされ、当時ハード・ロック・ファンからはあまり評価されなかった人ですが、今になってみると彼の才能をハード・ロックのみで測るのは間違いであることがわかります。
自らヴォーカルも披露したソロ・アルバム(『TEASER』)も秀逸ですが、パープル加入以前に参加した、ジャズドラマーBilly Cobhamのアルバム『SPECTRUM』でのプレイは凄絶です。Jeff Beckがこのアルバムを聴いてオールインストの作品を作ろうと決心した、という伝説がありますが……実は、ベックが後に共演するキーボーディストJan Hammerこそ、このコブハムのアルバムでBolinとリードバトルをしている相手なのです(ヤン・ハマーも第一期マハヴィシュヌ・オーケストラのメンバー。世間は狭い?です)。
「Quadrant 4」は、Billy Cobhamの凄まじいフットワーク&スネアワークがドライヴする中で速弾きギター……に極限まで似せたヤン・ハマーのシンセサイザーが炸裂。そして中盤から満を持してトミーの独創性に満ちたトーンとフレージングのギターが場を制覇するという、トンでもない強力作。ジャズ好きの人にはどうだかわかりませんが、ハードロック野郎の小生にはこれ一曲で十分でした。トミー・ボーリンて、こんなに凄かったのかい!
先に述べたように、Bolinはその後ディープ・パープルに加入、ソロ・アルバムも発表しますが、その真価を広く認められる前にドラッグが原因で亡くなってしまいました。再評価熱が高まったのは後年のことですが、アーカイヴ音源が出るたびに気になって聴いてしまうと……やはりけっこういろいろなことをやっていたんだなあと思わされますね。