DON'T PASS MUSIC BY

"There is no wrong or right, and nobody's talking to anyone......"<Love Sculpture>

第54回「Vernon Reid & Masque」(5)

いよいよ作品を聴いて参りましょう。

 

Spectrum Road『SPECTRUM ROAD』(2012)

  1. Vuelta Abajo
  2. There Comes A Time
  3. Coming Back Home
  4. Where
  5. An T-eilan Muileach
  6. Vashkar
  7. One Word
  8. Blues For Tillmon
  9. Allah Be Praised
  10. Wild Life

<メンバー>

 Jack Bruce(Ba, Vo)

 Cindy Blackman(Dr, Vo)

 Vernon Reid(Gt)

 John Medeski(Key)

 

 ※写真左からメデスキ、ブラックマン、リード、ブルースの各氏。

 

 時代のふるい曲から聴いてみますか。4が『EMERGENCY!』(1969)からの大曲「Where」、12分半あります。冒頭からトニーのシンバルワークが芸術的な楽曲ですが、シンディさんのプレイもお見事です。オリジナルはトニー+ジョン・マクラフリン(Gt)+ラリー・ヤング(Org)だったのですが、こちらではジャックのベースが入ってます。オリジナルにとらわれない(とらわれなすぎる〔笑〕)ヴァーノンのプレイが強烈。原曲もそうでしたが、執拗なリフレインが魔術的な高揚感を生んでグルーヴ・ミュージックと化しているのが凄いです。もう一つ6「Vashkar」も同作から。こちらも原曲のインテンスな感じをよく再現していますね。メインテーマがきっちりあって何度か出てくるので聴きやすい(?)かもしれない。

 

 1「Vuelta Abajo」は『TURN IT OVER』(1970)から。スネアの連打に始まるところとか、ベースやギターのリフが強調されるところとか、「ロックっぽさ」を演出した曲なんじゃないかな。オリジナル後半に出てくるジョンのクレイジーなギターソロもインパクトがありましたが、ヴァーノンは、と。おうおう(笑)、案の定全力でブッ飛ばしてくれますな。メデスキさんの轟轟たるオルガンもヘヴィでございます。9「Allah Be Praised」は、軽快・高速なジャズ。後半テンポを落としてダンスミュージックになったかと思うと、再度ギアを挙げて高速でブッちぎる……いわばTWL(Tony Williams Lifetime)流の「ロックンロール」なんだと思いますが、Spectrum Roadの面々はそれをさらにデフォルメして聴かせます。完全にハード・ロックンロール(ジャズ風味)。長いオルガンソロが決まった……と思うとまた全速力に。

 

 7の「One Word」はTWLではシングル曲だったようですが、後に『TURN IT OVER』のボーナストラックに入りましたので、ここで聴いときましょ。ジャックのヴォーカルが聴けるナンバー。これも後半から終盤にかけての高揚感が物凄い。後にJohn McLaughlinMahavishnu Orchestra『BIRDS OF FIRE』(1973)でインスト・ヴァージョンが披露されます。Spectrum Road版もやはり主役はジャックかなあ。40年以上前の曲を変わらず歌えるんだから。

 

 『EGO』(1971)からの2「There Comes A Time」も歌入りナンバーで、オリジナルはトニー・ウィリアムス自身が歌ってました。結構細い、少年みたいな声だったのね。ラリー・ヤング(Khalid Yasin名義)は引き続き参加だけど、ベースはRon Carter、ギターはTed Dunbarなので、パーソネルはだいぶジャズ寄りになりました。トニーお気に入りの曲みたいで、ロニー・モントローズたちと来日したときもライヴでやってました。Spectrum Road版は深みのあるジャックの声を中心にしたジャズ・バラード風に仕上がってます。

 

 10「Wild Life」は、The New Tony Willliams Lifetimeとなっての作品『BELIEVE IT』(1975)に入っていた曲。オリジナルの曲名は厳密には「Wildlife」でした。こちらの目玉はアラン・ホールズワースのギターでしょうね。居心地のよかったSoft Machineを抜けてまでアランが馳せ参じたジャズの巨匠、それがトニー・ウィリアムスの新バンドだったのですが、『BELIEVE IT』でのプレイは確かにイイです。ロックファンが最初に聴くなら、『EMERGENCY!』よりもこっちの方がとっつきやすいでしょうね。アランが持ち込んだ曲も「Fred」「Mr.Spock」等粒ぞろいだし、Tony Newton(Ba)さんによる「Snake Oil」「Red Alert」も結構ロックっぽくて気合が入る。そしてトニー作の「Wildlife」、メロディとストラクチャがはっきりしてて、楽しみやすいです。Spectrum Roadは、基本フォーマットはもちろん同じですが、ヴァーノンがオリジナルにかまわずに弾きまくっちゃうのが痛快。最初は「冒涜?」とか思わなくもなかったですが、ジャズなんだからいいやね。

 

 3「Coming Back Home」はJan Hammer作。ロック・ファンには、Jeff Beckとの仕事などが有名でしょうか。『THE JOY OF FLYING』(1979)では、ヤン・ハマーのキーボードの他に、George Bensonのギターがフィーチュアされてます。って今調べて知ったわ。ジョージ・ベンソントニー・ウィリアムスの接点、不勉強で知りませんでした。Spectrum Roadではヴァーノンさんも丁寧に元のメロディーを奏でていくよね……って言おうとしたら必殺の自己流に突入ですよ。もはや期待通り!あと、トニーの右手ワークとタム使いを自家薬籠中の物にしているシンディ・ブラックマンさんに脱帽。「オイオイ、俺のことも忘れんじゃねーよ」って感じで入って来る後半のメデスキ・オルガンもグッド。

 

 あとはSpectrum Roadのオリジナルナンバーってことになりますか。5「An T-eilan Muileach」はトラディショナル・ソングだってことですが、よくは存じません。ふわふわした不思議な感じのバックの上にジャックの呪文的な(?)ヴォーカルが乗っかる、一風変わった曲。一方8の「Blues For Tillmon」は4人の共作になる4ビートのジャズ。ムチャな速弾きを抑えたヴァーノンさんのプレイはクールな貌も見せてくれます。TillmonはTony Williams(Anthony Tillmon Williams)のミドルネーム、つまり本作はトニーへのトリビュート曲という理解でよいと思います。「ライフタイム」っぽいジャズ・ロックやプログレフュージョンではなく、古風なジャズで表現したところに彼らのトニーへの愛着の深さを感じます。

 

 あとは、彼らが設定した曲順で味わうと、なお楽しめるでしょう。たとえば、トリビュートのしんみりした「Blues for Tillmon」が終わった後に爆音ロックンロール「Allah Be Praised」が来て大騒ぎして、締めにライフタイム期の一つの到達点たる美しい「Wild Life」がやってくる、なんてのは心憎いもんですよ。

 

 というわけで、Vernon Reidさんをダシに(ごめんなさい)、いろんな作品を聴かせてもらいました。

<完>