70年代英国パンク(ロンドン・パンク)バンドThe Damnedの(元)ドラマーによる、ソロアルバム。ドラムはもちろん、ほとんどすべての楽器を自らプレイした宅録っぽい作品。Keith Moon(The Who)流のドラミングを継承出来る稀有な人士だと思ってきたのですが、そのドラム以外もなかなか達者。
(7)Rat Scabies『P.H.D.(Prison, Hospital, Debt)』(UK)
- Chew On You
- My Wrists Hurt
- Sing, Sing, Sing
- Rat's Opus
- Floating
- Shivers
- Dazy Bones
- Benni's Song
- Un Noveau Balai (A New Broom)
- Floydian Slip
- It Feels Like Sunday
- Glad You Could Make It
ジョン・リー・フッカー系のブギ「Chew On You」をガシャガシャやったかと思うと、初期ダムド風のハイ・スピード・ドラミングが炸裂するインスト「My Wrist Hurt」(手首が痛えよ)を挟んで、最初の目玉である「Sing, Sing Sing」(カヴァー)に至ります。ピアノはゲストのプレイですが、主役のドラムはもちろんラット(63歳)。ジャズ系のドカドカプレイもお手の物。
次の芝居がかった「Rat’s Opus」はちょっと面白い。チープなシンセサイザーによるオーケストレーションが大仰に響くクラシカルな演出の上に、ダーティなだみ声ヴォーカル。違和感を敢えて狙った(たぶん)意欲作。次の「Floating」もなんか変な曲だな。サックスやキーボードが入って分厚いのはいいとして、歌が不思議。
「Shivers」はこれらに比べるとオーソドックスなマイルド8ビート……からの疾走(The Kinks「She’s Got Everything」っぽいパターンとリフが出てくる)。これだけバラエティに富んだパターンを叩き分けるんだからやっぱり一流ドラマーだ。音の粒が立ってて、“流した感じが無い”のも私の好きなポイント。
後半に行くぜ。「Dazy Bones」は程好い疾走感が、やっぱりキンクスあたりを感じさせる。比較的シンプルなこの曲いいね……とか思ってたら終盤にわざとヘンな調子っぱずれの音を入れてくるあたり油断ならん。短いギターインスト「Benni’s Song」を挟んでの「Un Noveau Balai (A New Broom)」は、Status Quoっぽいハードブギー(インスト)。
「Floydian Slip」(freudian slipではない)も、「Rat’s Opus」と並ぶ実験的作風。謎の語りは入るし。ピンク・フロイド風のサイケ・ソングをやってみたんでしょうか。次の「It Feels Like Sunday」(インスト)もイントロのもわーんとした感じは初期Pink Floydっぽいような……結構好きだったんですかね。ジョニー・ロットンは“I Hate Pink Floyd”シャツで人目を引いたらしいけど、70年代パンクスがフロイドに影響を受けてないわけではない、ということですか。勘繰り過ぎかね。浮遊感のある同曲が終わるとラストは「Glad You Could Make It」、こちらも前曲と対になるような感じのインストでしたね。
アルバム終盤の意図が正直なところ見えにくいですが、ラットさんのドラミング・ギターワーク・歌その他もろもろ楽しめることは確か。好事家はチェックしましょう。
<続く>