ヴァーノン・リードとビル・フリゼールの作品を珍しがる割には、リヴィング・カラーも実はこれ(↓)しか持っていない。そんな不心得者が私でございます。
Living Colour『TIME’S UP』(1990)
- Time’s Up
- History Lesson
- Pride
- Love Rears Its Ugly Head
- New Jack Theme
- Someone Like You
- Elvis Is Dead
- Type
- Information Overload
- Under Cover Of Darkness
- Ology 1
- Fight The Fight
- Tag Team Partners
- Solace Of You
- This Is The Life
<メンバー>
Corey Glover(Vo)
Vernon Reid(Gt)
Muzz Skillings(Ba)
Will Calhoun(Dr)
冒頭のタイトルトラック「Time’s Up」はスラッシュ・メタルを弄んだような曲ですが、確か本人たちも「Anthraxの向こうを張った」とか言ってたんじゃなかったですかね。ライナーノーツがいま手元にないので正確な発言はわかりませんが。なぜか隣接他ジャンルアーティストに影響を与えるのはメガデスやスレイヤーでなくてアンスラックスみたいなのよ。Helloweenの「Savage」っていう暴走ソング――ドラムのインゴ・シュヴィヒテンバーグの頑張りを永遠に称えよ!――も、作曲者のMichael Kiskeが「アンスラックスみたいにやってやりたかった」って言ってたはずよ。
それはともかくLiving Colourのこの曲(4人の共作)は、緩急自在の鞭のようなドラム、ギューンと来るトーンで速弾きも繰り出すギター、バキバキのベース、明朗に歌い上げるヴォーカル……とメンバーのポテンシャルが存分に味わえるナイス・メタルになっております。
ちなみに、私がリヴィング・カラーの名前を最初に知ったのは、ネット情報でもブックレットでもディスクガイドでもありませんでした。Billy Joelの『JOURNEY TO THE RIVER OF DREAMS』のディスク2、ファンの質問に答える形の講演会の記録の中でのビリーの発言でした。自分が音楽的に影響を受けた要素のうちの一つに「リズム&ブルース」を挙げる中での、次の言葉です。
「リズム&ブルース、これも大きな影響を受けた。ビートルズ以前に、唯一夢中になってたのはレイ・チャールズ、ジェイムズ・ブラウン、サム&デイヴ、ウィルソン・ピケット。ロックンロールはそもそも、アフリカ系アメリカ人によって生み出されたのに、今の世の中不思議なのは、リヴィング・カラーのようなバンドが出てくると、人々は『珍しいね、黒人バンドがロックンロールをやるとは』と言って驚くことだ。『ジミ・ヘンドリックス?黒人がロックンロールやるなんてヘンだな』と言うけど、元は彼らが発明したんだ。そんなわけで、リズム&ブルースは大好きだった。〔後略〕」(1994年春、プリンストン大学での講演記録。松田洋子氏訳)
何でもビリー・ジョエルにこじつける、我ながら名人芸。……すみませんでした、さ、『TIME’S UP』を聴いていきましょうね。短いインタールード(SE?)「History Lesson」を挟んでは、メロディアスな歌い上げが楽しめるハードロック「Pride」。ヴァーノンの必殺ギター――たどたどしいくだりと速弾きの対比もあざとくて良い!――も堪能出来ます。これはドラムのWill Calhounの作なんですか。続くVernon Reid作の「Love Rears Its Ugly Head」はストリングスで始まるからびっくりしますが、本編はキレのあるリズムが小気味よいロックナンバーでした。Coreyさんの歌唱が丁寧なので、正統的ハードロックの味わいがあって、個人的にはこういうのは好き。
「New Jack Theme」は16ビートをベースにしたファンク的メタル。Muzz Skillings作の「Someone Like You」は重心を下げながらも弾むロックナンバー。このバンドはみんな曲を書くんですね。
「Elvis Is Dead」は、ラップ・ヴォーカルにLittle Richard(!)+サックスにMaceo Parkerがゲスト参加。“♪エルヴィスは死んだ”。いや、一瞬こういう日本語も入るのよ。“♪A black man taught him how to sing, and then he was crowned king.”とかっていう歌詞、どういうことを言いたいのでしょうね。(なんとなくわかる気もしますが……)で、この曲と似たリズムの「Type」が続きます。打ち付けるビートに強靭なリフ、ゴヂャっとしたギターソロ。
ヴァーノンのギターソロから始まる「Information Overload」も、ビッグなリフレインが牽引するハードロック。ウィルさんのドラミングがイイですなあ。ヴァーノンも弾きまくるぞ。彼の速弾きは、ジャズやブルーズを基盤としたアルヴィン・リーや、クラシック・ベースのイングヴェイ・マルムスティーンとはまた違うのよね。
ストリングスやクラリネットも投入される「Under Cover Of Darkness」では、ゲストヴォーカルにQueen Latifah氏。この曲はヴォーカルのコリー・グローヴァー作。楽曲の骨格はファンキーなリズムにジャキジャキしたギターなんですが、2分30秒過ぎからQueenさんのラップが入ってきます。
ベースのマズさん作のインスト「Ology」で、氏のプレイを短く味わうと、メンバー4人共作の「Fight The Fight」へ。ここまで聴いてくると、彼らの得意のスタイルというのがみえてきますが、そういう十八番という感じ。ヴァーノンのギターやウィルのドラムに耳を引かれますが、やっぱりこのバンドが良いのは、コリーの(かなり)メロディアスな歌唱をしっかりフィーチュアしてるところですわ。
ゲストのDoug E. Fresh氏のヴォーカル・パフォーマンス(Human Beatboxっていうんですか)「Tag Team Partners」を1分弱聴かせてもらうと次に来るのが、やはりダグさんのHuman Beatboxをフィーチュアする明るいロックソング「Solace Of You」。Derin Youngという方もゲストヴォーカルに登場です。サビからのコード展開が彼ら流ですよねえ。爽な展開は好きです。
ラストの「This Is The Life」は、なんて言っていいのかわからない不思議な始まり方をしますな。呪術めいた雰囲気というのか。1分20秒くらいからの本編部分は、コリーの歌がしっかり入る歌モノになりますが、それでも何やらどよーんとした感じあり。前曲との対比でなおさらそう感じるのやも。歌詞では“♪In your real life, think of those that love you”云々というのが終盤に。
私が持ってる日本盤はボーナストラック「Final Solution」が入ってました。アウトするギターソロが強烈、ヘヴィで陰鬱……な気がする。Pere Ubuのカヴァーとのことです。
<続く>