DON'T PASS MUSIC BY

"Fashist an di attack ,den wi countah-attack......"<Linton Kwesi Johnson>

時代の産物を追う?〔続〕(12)

 2018年作品。

 

 私が最も敬愛するレジェンダリー・ブルーズマンJohn Lee Hooker、その甥にあたる方なんだそうです。1949年生まれで、10代から音楽に関わっておられたそうですが(ゴスペル・グループに居たとか……)、80年代末に叔父ジョン・リーを頼って西海岸に移られました。本作はバンドCoast to Coast Blues Bandを率いての2016年録音、2018年発表作。

 (2)Archie Lee Hooker & The Coast to Coast Blues Band『CHILLING』(USA)

youtu.be

  1. 90 Days
  2. Love Ain't No Play Thing
  3. Moaning the Blues
  4. Don't Tell Mama
  5. Big Ass Fun
  6. Found A Good One
  7. Tennessee Blues
  8. The Roots Of Our Family
  9. Chilling
  10. You Don't Love Me No More
  11. Blues Shoes
  12. I've Got Reasons
  13. Don't Forget Where You Came From
  14. Your Eyes
  15. Bright Lights Big City
  16. Jockey Blues
  17. Thank You John

<メンバー>

 Archie Lee Hooker(Vo)

 Fred Barreto(Gt)

 Nicolas Fageot(Ba)

 Yves “Deville” Ditsch(Dr)

 Matt Santos(Organ, Harmonica)

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 John Lee Hookerの親族作品、実はいくつか持っております。娘さんZakiya Hooker『FLAVORS OF THE BLUES』(1996)、息子さんJohn Lee Hooker, Jr.『BLUES WITH A VENGEANCE』(2004)など。ザキヤさんは、ジョン・リーのトリビュートアルバム『FROM CLARKSDALE TO HEAVEN: Remembering John Lee Hooker』(2002)にも加わっておられましたね。Johnny JohnsonやBobby Murrayと共演して「I Want To Hug You」を歌ってました。さて、こちらの甥御さんは如何でしょうか。

 

 軽快なギターと歌がチャック・ベリーをも思い起こさせる「90 Days」でアルバムはスタート。バックのCoast to Coast Blues Bandの面々は、写真を見る限りアーチーさんよりだいぶ若いようですけども、アーシーなブルーズ・サウンドをしっかり奏でてくれますな。ハーモニカの入り方もよい。

 「Love Ain't No Play Thing」はゆったり弾んでいきましょう。Fred Barretoさんのアコースティック・ギター捌きがなかなかに巧み。Nocolas Fageotさんのベースもバウンド感をよく演出。

 「Moaning the Blues」はアコギ・ソロからフォークっぽくに始まるのですが、アーチ―さんヴォイス――ジョン・リーのあの独特の艶まではさすがにありませんが、低音の渋みはなかなかのもの――が入ってブルージーに。中盤からはMatt Santosさんによるオルガンが加わって分厚く展開。

 やはりフレッドさんのアコギを伴奏に、アーチーの語りが淡々とすすめられる「Don't Tell Mama」は、シンガーの自分史語りのようでもあります。ここまでの4曲が4曲とも異なるスタイルであること、偉大なる叔父上得意のパターンに頼っていないことなどは好印象ですね。

 

 ジョン・リーらしいといえば、次の「Big Ass Fun」がそれっぽいワンコードのストンピング・ブギー。いや、Yardbirdsあたりが好んだ「I’m A Man」(Bo Diddley作)の雰囲気に近いかな、ハーモニカのせいで。

 「Found A Good One」は、(こんどは)The Whoがやった版「I’m A Man」に近いヘヴィ・シャッフル。このあたりはエレクトリックのセットです。マットのオルガン・ソロ、フレッドのギター・ソロ(スライド有り)も雰囲気十分。

 「Tennessee Blues」は、ホーンもバックアップに入った、明るくゆったりしたナンバー。ジョン・リーも80-90年代にはこういうのをやってましたね、よく。

                               


                                                             

 ハーモニカをバックにアーチー語りが聴ける短めの「The Roots Of Our Family」もファミリー・ヒストリー物。

 続くタイトルトラック「Chilling」は、規則正しく4分を刻むスネアの煽りが印象的な、ややロック的なナンバー。スタイリッシュなオルガンの使い方なども含め、ここまでではもっともモダンな味わいかも。

 「You Don't Love Me No More」はピアノの転がるロックンロール。ぼそぼそしたヴォーカルが味わいのALHに合ってるかは微妙な気もしますが、サックス・ソロも入ってご機嫌なので良しとしましょう。

 ヴォーカル的には「Blues Shoes」で怪しく唸ってる方が“らしい”ですかね。ちなみにここまでスルーしてしまいましたが、Yves Ditschさんの変幻自在ドラミングも見事なもの。重いやつから軽い感じまでお手の物……ついでに本作の録音・ミックス・プロデュースも手掛けてるみたいです。

 

 そのイーヴさんの叩き出すビートが心地好い「I've Got Reasons」は、反復的ギターリフも相まってやはりロック色強め。サポートかゲストでヴォーカル(女性?あるいはスティーヴ・マリオットみたいなヒト?)が入って、アーチーさんと共演。盛り上がった!

 ところで、今度はオルガンをバックにした語り「Don't Forget Where You Came From」。いずれまとめて聴き取って、ジョン・リー研究の手掛かりにさせてもらいましょうか。

 

 端正なピアノとPeter Green風(?)のギターが聴ける「Your Eyes」は、ゆったりしたノリとコンテンポラリーなポップ風味が叔父上にはあまりなかったスタイルかな。

 「Bright Lights Big City」は、アルバム冒頭のごときアコースティックやハーモニカを主とした軽快なナンバー。

 同じく(たぶん)リゾネーター・ギターを伴奏としたカントリー・ブルーズタッチの「Jockey Blues」が短く歌われて、ラストは「Thank You John」。ベースを背景とした語りで、もちろん叔父上への感謝を述べたもの。こうしてみると、「語り」シリーズは、コースト・トゥ・コースト・ブルーズバンドの一人一人とそれぞれ録ったみたいですね。

 

 Archie Lee Hookerさんにジョン・リーのような神々しさは求められないにしろ、苦労人らしい渋い味わいはしっかり有り。それと、ただのバックバンドではない、腕利きのCoast to Coast Blues Bandのブルーズ解釈・表現も聴き所でした。個人的には、冒頭や末尾の、エレクトリック“でない”楽曲によりおもしろみを感じました。彼らがこの『CHILLING』以降新作に取り組んでるのかわからない――HPに2018年7月より後のニュースが出ていない――のですが、ぜひとも頑張っていただきたいですね。

<続く>