2018年作品。
私が最も敬愛するレジェンダリー・ブルーズマンJohn Lee Hooker、その甥にあたる方なんだそうです。1949年生まれで、10代から音楽に関わっておられたそうですが(ゴスペル・グループに居たとか……)、80年代末に叔父ジョン・リーを頼って西海岸に移られました。本作はバンドCoast to Coast Blues Bandを率いての2016年録音、2018年発表作。
(2)Archie Lee Hooker & The Coast to Coast Blues Band『CHILLING』(USA)
- 90 Days
- Love Ain't No Play Thing
- Moaning the Blues
- Don't Tell Mama
- Big Ass Fun
- Found A Good One
- Tennessee Blues
- The Roots Of Our Family
- Chilling
- You Don't Love Me No More
- Blues Shoes
- I've Got Reasons
- Don't Forget Where You Came From
- Your Eyes
- Bright Lights Big City
- Jockey Blues
- Thank You John
<メンバー>
Archie Lee Hooker(Vo)
Fred Barreto(Gt)
Nicolas Fageot(Ba)
Yves “Deville” Ditsch(Dr)
Matt Santos(Organ, Harmonica)
John Lee Hookerの親族作品、実はいくつか持っております。娘さんZakiya Hookerの『FLAVORS OF THE BLUES』(1996)、息子さんJohn Lee Hooker, Jr.『BLUES WITH A VENGEANCE』(2004)など。ザキヤさんは、ジョン・リーのトリビュートアルバム『FROM CLARKSDALE TO HEAVEN: Remembering John Lee Hooker』(2002)にも加わっておられましたね。Johnny JohnsonやBobby Murrayと共演して「I Want To Hug You」を歌ってました。さて、こちらの甥御さんは如何でしょうか。
軽快なギターと歌がチャック・ベリーをも思い起こさせる「90 Days」でアルバムはスタート。バックのCoast to Coast Blues Bandの面々は、写真を見る限りアーチーさんよりだいぶ若いようですけども、アーシーなブルーズ・サウンドをしっかり奏でてくれますな。ハーモニカの入り方もよい。
「Love Ain't No Play Thing」はゆったり弾んでいきましょう。Fred Barretoさんのアコースティック・ギター捌きがなかなかに巧み。Nocolas Fageotさんのベースもバウンド感をよく演出。
「Moaning the Blues」はアコギ・ソロからフォークっぽくに始まるのですが、アーチ―さんヴォイス――ジョン・リーのあの独特の艶まではさすがにありませんが、低音の渋みはなかなかのもの――が入ってブルージーに。中盤からはMatt Santosさんによるオルガンが加わって分厚く展開。
やはりフレッドさんのアコギを伴奏に、アーチーの語りが淡々とすすめられる「Don't Tell Mama」は、シンガーの自分史語りのようでもあります。ここまでの4曲が4曲とも異なるスタイルであること、偉大なる叔父上得意のパターンに頼っていないことなどは好印象ですね。
ジョン・リーらしいといえば、次の「Big Ass Fun」がそれっぽいワンコードのストンピング・ブギー。いや、Yardbirdsあたりが好んだ「I’m A Man」(Bo Diddley作)の雰囲気に近いかな、ハーモニカのせいで。
「Found A Good One」は、(こんどは)The Whoがやった版「I’m A Man」に近いヘヴィ・シャッフル。このあたりはエレクトリックのセットです。マットのオルガン・ソロ、フレッドのギター・ソロ(スライド有り)も雰囲気十分。
「Tennessee Blues」は、ホーンもバックアップに入った、明るくゆったりしたナンバー。ジョン・リーも80-90年代にはこういうのをやってましたね、よく。
ハーモニカをバックにアーチー語りが聴ける短めの「The Roots Of Our Family」もファミリー・ヒストリー物。
続くタイトルトラック「Chilling」は、規則正しく4分を刻むスネアの煽りが印象的な、ややロック的なナンバー。スタイリッシュなオルガンの使い方なども含め、ここまでではもっともモダンな味わいかも。
「You Don't Love Me No More」はピアノの転がるロックンロール。ぼそぼそしたヴォーカルが味わいのALHに合ってるかは微妙な気もしますが、サックス・ソロも入ってご機嫌なので良しとしましょう。
ヴォーカル的には「Blues Shoes」で怪しく唸ってる方が“らしい”ですかね。ちなみにここまでスルーしてしまいましたが、Yves Ditschさんの変幻自在ドラミングも見事なもの。重いやつから軽い感じまでお手の物……ついでに本作の録音・ミックス・プロデュースも手掛けてるみたいです。
そのイーヴさんの叩き出すビートが心地好い「I've Got Reasons」は、反復的ギターリフも相まってやはりロック色強め。サポートかゲストでヴォーカル(女性?あるいはスティーヴ・マリオットみたいなヒト?)が入って、アーチーさんと共演。盛り上がった!
ところで、今度はオルガンをバックにした語り「Don't Forget Where You Came From」。いずれまとめて聴き取って、ジョン・リー研究の手掛かりにさせてもらいましょうか。
端正なピアノとPeter Green風(?)のギターが聴ける「Your Eyes」は、ゆったりしたノリとコンテンポラリーなポップ風味が叔父上にはあまりなかったスタイルかな。
「Bright Lights Big City」は、アルバム冒頭のごときアコースティックやハーモニカを主とした軽快なナンバー。
同じく(たぶん)リゾネーター・ギターを伴奏としたカントリー・ブルーズタッチの「Jockey Blues」が短く歌われて、ラストは「Thank You John」。ベースを背景とした語りで、もちろん叔父上への感謝を述べたもの。こうしてみると、「語り」シリーズは、コースト・トゥ・コースト・ブルーズバンドの一人一人とそれぞれ録ったみたいですね。
Archie Lee Hookerさんにジョン・リーのような神々しさは求められないにしろ、苦労人らしい渋い味わいはしっかり有り。それと、ただのバックバンドではない、腕利きのCoast to Coast Blues Bandのブルーズ解釈・表現も聴き所でした。個人的には、冒頭や末尾の、エレクトリック“でない”楽曲によりおもしろみを感じました。彼らがこの『CHILLING』以降新作に取り組んでるのかわからない――HPに2018年7月より後のニュースが出ていない――のですが、ぜひとも頑張っていただきたいですね。
<続く>