シド・バレットのアルバムは「ロック」とはちょいと違いましたが、ロック本道での仕事もあった。The WhoのベーシストJohn Entwistleのファーストソロ・アルバムへの参加です。
(4)John Entwistle『SMASH YOUR HEAD AGAINST THE WALL』(1971)
- My Size
- Pick Me Up (Big Chicken)
- What Are We Doing Here?
- What Kind of People Are They?
- Heaven And Hell
- Ted End
- You’re Mine
- No. 29 (Eternal Youth)
- I Believe in Everything
<メンバー>
John Entwistle(Vo, Ba, Key, Horn)
Cy Langston(Gt)
Jerry Shirley(Dr)
豪快なギターリフで幕を開ける「My Size」。ジェリーさんの名人芸でゆったりしつつも張りのある枠組みが出来上がり、その上でジョンのベースが弾む。Cy Langstonさんは、The Whoのエンジニアなどをつとめたひとのようですが、プレイヤーとしてはほとんど本作が唯一の参加作ではないでしょうか。Pete Townshendとは全然違いますが、オーソドックスないいプレイをされます。ところで、“♪I’m gonna bring you down to my size, smash your head against the wall.”っていう歌詞、何のことなんだろうと思いますよね。曲の終わりに“で・れ・れ・れ、だー、だー、だー。”っていうリフが現れるので、あ、「Boris the Spider」の続編(?)なんだなとわかる仕掛け。The Who「Boris the Spider」は、ジョンのペンによる初期The Who(『A QUICK ONE』所収)なんですが、おもしろい曲なのでそちらもぜひ。
「Pick Me Up (Big Chicken)」は、イントロセクションなどでホーンの入るロックソング。ジョン・エントウィッスルさんは、フリューゲルホルン・トランペット・トロンボーンもプレイしている、とクレジットにあります。The Who『TOMMY』でもジョンさんはホルンを披露していましたね。かすかにおどろおどろしい雰囲気も醸し出すのがジョンのロックンロールで、そこはピート・タウンゼンドと異なりますかね。腕利きベーシストのリーダー作だけあって、ベースはアクティヴ。Billy SheehanのTalasほど露骨じゃないけど、けっこうブンブン言ってます。(因みに、ビリー・シーンはジョン・エントウィッスルを「ヒーロー」と敬っていたようです。)
かと思うと、フォーキーなテイストの「What Are We Doing Here?」なんかでは、ジョンがかなりきっちり歌える人なんだということがわかったりもします。こういうソフト目の曲でも、ジェリーさんのサポートは万全。彼ならではの柔らかな音色もイイ……って、これはエンジニアの手柄かな?おお、後にQueen等の仕事で一般にも知られる(?)Roy Thomas Baker先生でしたか。
「What Kind of People Are They?」は、ホーンがしっかり入る曲で、弾むようなリズムなのですが、歌詞はどうやら愚痴とか不満・怒りがテーマみたいなんですよね。Cyさんのジャキっとしたリフが私は好み。
「Heaven and Hell」は、The WhoでシングルB面曲(A面は「Summertime Blues」)として発表されていた曲の、セルフ・カヴァー。The Whoではライヴでよく演奏されまして、名盤『LIVE AT LEEDS』が録られたころにもステージ・フェイヴァリットだったようです。(1995年のリイシュー盤『LIVE AT LEEDS』の冒頭に入ってて、私はこれが初遭遇でした。)The Whoのヴァージョンは、かなり荒々しく殺気立った雰囲気でして――まあ、キースが叩きまくり、ピートが弾きまくるんですから仕方ない――、それがライヴだとさらにとんでもないことになるんですが、こちらのソロ再録版はだいぶ異なる。ベースがアクティヴなのは相変わらずですが、テンポもおとし、アコースティックギターが主で、鳴り響くホーンに耳が行く。といって、「のどか」ではないのは歌詞“♪Why can’t we have eternal life, and never die, never die?”をジョンが本気か皮肉かわかんないトーンで歌うからですかね。なんか、どことなく不気味なんですよ。あと、フィルイン名手のジェリーさんによって、盛り上がりが増大しているのは聴き所。
ホーンとオルガンがメインのゆったりした「Ted End」。ピアノ入りで、ジョンの歌が引き立てられる「You’re Mine」。いずれもちょっと聴いた感じでは和みそうになりますが、歌詞がやはり重い。前者はある人物(架空?)の死を歌った――Eleanor Rigby風の?――曲だし、後者の“You’re Mine”ていうのはラヴソングの類では全然なくて、どうやら大小の邪悪を為す者に対し「お前は余のものだ」ってサタンが呼び掛けているみたいなんですよ。で、“♪Get behind me Satan, the devil takes all those that sin…….”なんて出てくるわけ。割合聴きやすい曲調で、怖いことを歌う人ですよジョン先生。何言ってんのかわかんないデスメタルとかよりずっと怖いです。次の「No.29(Eternal Youth)」(CDにはExternal Youthって書いてあるけど、誤植?)あたりまで含めてね。似てる曲調だけど「No.29」の方がバンドサウンド感が強いかな。ジェリーさんのスネア・ワークがツボを突いてくるのは言わずもがなとして、シンバルの決め方もいい。3分辺りから、パーカッションソロやベースソロといった器楽パートに突入しますが、このリフレインのドゥーミーなまでの執拗さはどうですか。
最後の「I Believe in Everything」くらいは、心穏やかに。メンバーお得意のゆったりテンポで、心地よいメロディに浸ろう……とするのにそれをさせないジョンのセンス。「なんでも信じる」は半分皮肉らしくて、終盤クライマックスでは「あんたは、信じるのかい?魔法、天国と地獄、キングコング、生まれ変わり、庭の奥の妖精、白雪姫と七人の小人、ゴブリン、グールと魔女、夜に出くわす者供、テレパシー、永遠の若さ、ミッキーマウス、サンタクロースを……」と畳みかけておいて、いきなり「Rudolph the Red-Nosed Reindeer(赤鼻のトナカイ)」をみんなで歌い出し、そのままフェイドアウトして終わってしまうという。なんだか妙な気分に聴き手をさせて終わっちゃうわけですよ。英国流の皮肉とユーモア、かもしれないけでも、ジョンは些か“悪趣味”かもしれないね。それがThe Whoのベーシスト、とは別のソロならではの姿かもしれませんけども。
ということで、英国ロック史に燦然と輝く……かどうかはわかりませんが、個性的な作品であることは間違いないJohn Entwistleの記念すべきソロデビュー作を堂々サポートしたのが、われらがJerry Shirleyさんであった、というお話でした。
ジェリーさんの仕事は、1980年代のFastwayとかWaystedのようなHR/HM系のものもあるのですが、そちらについてはまたの機会に。本特集はいったん締めくくっておきましょう。
<完>